改訂新版 世界大百科事典 「ハサミムシ」の意味・わかりやすい解説
ハサミムシ (鋏虫)
ハサミムシ目ハサミムシ科の昆虫の1種,または同目の昆虫の総称。ハサミムシAnisolabis maritimaは別名ハマベハサミムシとも呼ばれ,英名もcommon seashore earwigである。体長ははさみ(尾鋏)を含め18~35mm。体は扁平で太く,翅はまったくなく,黄褐色の触角と脚を除けば,全体的に光沢のある黒褐色である。雄のはさみは著しく不対称で,右側が強く湾曲している。ほとんど世界中に分布し,日本全国に分布している。低地に多く,塵芥(じんかい)中に生息する。雑食性であるが,塵芥に集まる小さな虫を捕食することが多い。成虫の発生は5月ころと8月ころの年2回である。雌は6月ころまたは9月ころに,石などの下の土中に穴をつくり産卵する。若虫がかえるまで,巣内および卵の表面を清掃し続け,餌をとることなく巣にとどまる。孵化(ふか)直後の若虫も保育し餌を与える。はさみは虫などをとるのに使われる。2~3齢の若虫で越冬する。貯蔵中の果実を加害することもあるが,重要な害虫ではない。
ハサミムシ目(革翅類)Dermapteraは世界から約1300種,日本からは20種が記録されている。英名はearwig。尾部に可動なはさみを備えることからハサミムシと称せられる。雄のはさみの形状は変化に富み,種の特徴をよく表す。翅は飛翔(ひしよう)可能なものからまったく欠くものまでさまざまである。多くの種類は石などの下や落葉中に生息するが,樹上や樹皮下に生息する種類も少なくない。変わった種類では洞穴中に堆積するコウモリの糞中に生息する。夜間活動性の種類が多く,灯火に飛来するものも少なくない。食性は本来雑食性であるが,多くは微小な虫を補食することが多い。雌成虫による巣と卵の清掃や若虫の保護習性は多くの種に共通する。ヨーロッパハサミムシForficula auricularia(英名European earwig)は,果実などを加害する重要な農業害虫であるとともに耳の穴に入ったりする衛生害虫でもある。日本では,オオハサミムシLabidura ripariaが稚蚕を捕食または傷害を与えたりするとの報告があるが,重要な害虫には至っていない。
執筆者:西川 勝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報