改訂新版 世界大百科事典 「ハマギク」の意味・わかりやすい解説
ハマギク (浜菊)
Chrysanthemum nipponicum Matsum.
海岸の崖や砂丘に生えるキク科の多年草で,茎が木化して越冬する。本州の太平洋岸を青森県~茨城県に分布する日本の固有種。茎はまばらに分枝して斜上し,100cmに達する。葉は肉質で,表面に光沢がある。花期は9~11月。頭花は大きく,開花直径約6cm,雌性と両性の多数の小花からなる。雌花は縁に1列あって,花冠は舌状で白色。両性花は中央に多数あって,花冠は筒状で黄色。雌花の瘦果(そうか)は鈍三角柱,両性花の瘦果は円柱形で10肋があり,ともに頂端部に小冠がある。瘦果は水につけても粘化しない。亜低木であること,果実に小冠が発達することなどにより,キク属から独立させてハマギク属Nipponanthemumとする見解が最近提案されている。以下に,近縁種について述べる。
(1)コハマギクC.yezoense Maek. 海岸の岩上に生える多年草で,北海道根室から太平洋岸に沿って本州茨城県まで分布する。茎は草質で,地上部は1年で枯れる。花期は9~10月。瘦果には5本の条があり,水に浸すとふくれて粘る。
(2)イソギクC.pacificum Nakai 海岸の崖に生える多年草。茎は曲がって斜上し,高さ30~60cmで,上部まで密に葉を互生する。葉は厚く,表面は緑色,縁は白色,裏面はT字状毛が密生して銀白色。花期は10~11月。多数の頭花を散房状につける。頭花は雌性と両性の小花からなる。雌花の花冠は普通,先が3~4歯ある黄色の筒状花であるが,ときに白色の舌状花がある。両性花は先が5歯ある黄色の筒状花である。千葉県犬吠埼から静岡県御前崎まで分布する。
(3)ノジギクC.japonense Nakai 海岸近くの崖に生える多年草。茎は基部が倒れ,上部が斜上し,よく分枝する。葉の表面は毛を散生して緑色,裏面はT字状毛を密生して灰白色。花期は10~12月。多数の頭花をやや散房状につける。頭花は開花直径3~4.5cm。雌性と両性の小花からなり,雌花は舌状花で白色,後に淡紅色となる。両性花は筒状花で黄色。瘦果はやや円柱形で,5肋ある。本州(近畿地方以西),四国,九州に分布する。
(4)リュウノウギクC.makinoi Matsum.et Nakai 日当りのよい山地の崖や林縁に生える多年草。本州(福島県・新潟県以西),四国,九州(宮崎県)に分布する。茎はまばらに分枝し,高さ40~80cm。葉の表面は短毛があって緑色,裏面はT字状毛が密生して灰白色。花期は10~11月。和名は,茎や葉に揮発性の油が含まれ,その香りがリュウノウ(竜脳)に似ることによる。
(5)イワギクC.zawadskii Herbich 東アジアからシベリアを経てヨーロッパ東部にかけて分布し,日本では北海道から九州まで飛石状に見られる。北海道では海岸の岩場に,本州では加賀白山や大台ヶ原山など,四国では寒風山など,九州では白岩山などの岩場に生える。花期は7~10月。頭花は開花直径3~6cm。舌状花冠は白色。
(6)シマカンギクC.indicum L. 日当りのよい山麓に生える多年草。茎の下部は倒れて地につくが,上部は直立し,高さ40~80cm。葉は洋紙質で,表面は微毛があって緑色,裏面はT字状毛があって淡緑色。花期は10~12月。頭花の開花直径は2.5cm内外。舌状花冠は黄色,まれに白色。本州(近畿地方以西),四国,九州,朝鮮,中国に分布する。
栽培のキクは多年草であるが,野生のものはない。1500年以前に中国でチョウセンノギクC.zawadskii var.latilobum(Maxim.)Kitam.とシマカンギクとの交配したものから改良されてつくられた園芸植物と考えられている。
執筆者:小山 博滋
薬用
シマカンギクの頭状花を菊花(きくか)という。モノテルペン(香気成分),フラボノイド,コリン,糖類を含む。他の生薬と配合して,頭痛,感冒,発熱,悪寒などに解熱鎮痛薬として用いられるほかに,血圧降下作用があり,高コレステロール症に応用される。茶剤は暑気払いや咽喉の渇きに飲料となる。
執筆者:新田 あや
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報