日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
パタニティ・ハラスメント
ぱたにてぃはらすめんと
paternity harassment
育児や子の看護を目的に休暇・時短勤務・フレックス勤務などを希望・利用する男性社員に対する嫌がらせ。父性を意味するパタニティpaternityと、嫌がらせを意味するハラスメントharassmentを組み合わせた造語である。パタハラと略される。妊娠・出産した女性に対する嫌がらせ行為をさすマタニティ・ハラスメントの対語であり、パワー・ハラスメントの一種である。法的・学術的に明確な定義はない。厚生労働省はパタニティ・ハラスメント、マタニティ・ハラスメント、介護休業利用者への嫌がらせをさすケア・ハラスメントをあわせて「妊娠・出産・育児休業(育休)・介護休業等に関するハラスメント」と位置づけており、典型事例として、上司や同僚が、育児休業や所定外労働の制限などの制度を利用しようとする男性従業員に対し、(1)解雇・減給・降格など、不利益な扱いをほのめかす、(2)利用請求しないように、あるいは請求を取り下げるようにいう、(3)利用している従業員に対しては、重要な仕事は任せられないといったり、雑用ばかりを命じる、などの行為をあげている。
日本では、子育ては女性がするものといった価値観が根強く、厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(2020)では、過去5年間で従業員のほぼ4人に1人がパタニティ・ハラスメントを経験していた。政府は育児・介護休業法(平成3年法律第76号)をたびたび改正し、2017年(平成29)以降2022年(令和4)までに、事業主にパタニティ・ハラスメント防止措置の義務化、配偶者が妊娠・出産する従業員への育休制度の説明の義務化、出生時育休(産後パパ育休)制度の創設、男性の育休取得率の公表の義務化などを追加。男性の育休取得率の政府目標として、2025年度に50%、2030年度には85%への引上げを掲げているが、2022年度の男性育休取得率は約17%(女性は8割超)にとどまっている。
[編集部 2023年10月18日]