マタニティ・ハラスメント(読み)またにてぃはらすめんと

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

マタニティ・ハラスメント
またにてぃはらすめんと

女性の妊娠出産を理由に、解雇降格などの不利益な取扱いを受けたり、ことば態度による嫌がらせなどを行うことの総称。マタニティmaternity(母性)とハラスメントharassment(いじめ・嫌がらせ)を組み合わせた和製英語で、英語圏ではpregnancy discrimination(妊娠に伴う差別)とよばれる。略称マタハラセクシュアル・ハラスメントパワー・ハラスメントとあわせ、働く女性に対する三大ハラスメントとされる。対語育児休業などを取得する男性への嫌がらせを意味するパタニティpaternity・ハラスメント(パタハラ)。

 マタニティ・ハラスメントは妊娠・出産のほか、産前・産後・育児休業の取得、短時間勤務、時間外労働・休日労働の拒否、復職、子の看護休暇の取得、つわりなどによる生産性低下などを理由に、(1)事業主や上司が解雇、雇止め、昇進差別、降格、非正規への変更、休暇取得拒否、残業強要減給などの雇用上の不利益な取扱いをする、(2)上司や同僚などの従業員がことばや態度で精神的・肉体的ないじめや嫌がらせをする、の2類型に分けられる。このうち雇用上の不利益な取扱いは、男女雇用機会均等法と育児・介護休業法をたびたび改正し、禁止範囲を拡大してきた。妊娠・出産を理由とした解雇は1985年(昭和60)の男女雇用機会均等法施行時から禁じられていたが、2007年(平成19)4月からは退職の強要、非正規への変更、配置転換、減給などを禁じ、2017年1月からは、事業主に加えて上司や同僚についてもマタハラを禁止。事業主に防止措置の義務化と、加害者を懲戒処分の対象とするよう就業規則に明記することを求めた。またことばや態度によるハラスメントについては、2019年(令和1)の女性活躍・ハラスメント規制法で、国・事業主・労働者には、他の労働者への言動に注意を払う責務があると明記した。事業主に相談体制の整備を義務化し、被害相談を理由にした女性への不利益な取扱いを禁止した。ただし罰則を伴う禁止規定はなく、実効性を確保できるかが課題となっている。

[矢野 武 2019年11月20日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

マタニティハラスメント

妊娠,または出産した女性に対してなされる,妊娠・出産を理由にした不当な解雇や降格処分,または精神的・肉体的ないやがらせ(→性差別)。日本では労働基準法男女雇用機会均等法育児・介護休業法などの法律に,女性が働きながら妊娠・出産・子育てを行なう権利について定められているものの,実際には雇用する側の認識の低さや職場環境の不整備によって不利益を被る女性が多く存在し,2010年代初め頃にはこの語が用いられるようになるとともに社会問題化した。妊娠を理由に管理職から降格させられた広島県の女性が,男女雇用機会均等法に反するとして勤務先を訴えた裁判で,2014年10月23日,最高裁判所は,妊娠を理由とする降格は法に反し,双方の同意または特段の事情がないかぎり違法で無効であるとする初めての判断を示し,女性の訴えを退けた 2審判決を破棄,審理を差し戻した。2015年11月17日,広島高等裁判所は差し戻し控訴審判決で,降格に合理的理由があるとはいえないなどとして,女性の逆転勝訴を言い渡した。(→性的いやがらせパワーハラスメント

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