パナマレンコ(読み)ぱなまれんこ(その他表記)Panamarenko

日本大百科全書(ニッポニカ) 「パナマレンコ」の意味・わかりやすい解説

パナマレンコ
ぱなまれんこ
Panamarenko
(1940― )

ベルギーの美術家。パナマレンコはアーティスト・ネーム、本名は非公表。アントウェルペン生まれ。1955~60年アントウェルペンの王立美術アカデミーで美術を学び、そのかたわら、同市の科学博物館に頻繁に出入りし、自然科学に関する幅広い知識を得る。60年、ピンホール・マシンの制作・発表によって作家活動をスタートさせるが、当初はハプニング志向が強かった。66年にはアントウェルペンに新設されたワイド・ホワイト・スペース・ギャラリーでハプニングとオブジェの展覧会を開催した。

 翌67年、人力飛行装置を模した作品を初めて制作。これを機に飛行機や飛行船をモチーフとして作品を多く作るようになる。またこれらの作品への反響によって、アメリカの航空会社「パンナム」をもじったパナマレンコの名が知られ、以後気球に水素ガスを注入して浮遊させる『アエロモデラー』(1969~71。1972~75に再制作)、人力飛行機『U‐コントロールⅢ』(1972)、同『人力デルタ飛行機』『コンチネンタル』(ともに1972~75)、昆虫型人力飛行機『ウンビリウ』(1976)、円盤型モーター(1984)などのプロジェクトに次々と着手した。これらの作品は「閉ざされた体系理論」「昆虫の飛翔」「ポリステス」(ジェット推進機付きのゴム製自動車)などについての独創的な研究を背景としており、その研究成果は『重力メカニズム、速度変化の閉ざされた体系』Der Mechanismus der Schwerkraft, Geschlossene Systeme der Geschwindigkeitsveränderung(1975)という書物にまとめられている。また80年代以後も、磁力宇宙船、空飛ぶリュックサック、電気仕掛けの鳥、空飛ぶ自動車など次々とユニークな研究を展開し、その成果を反映させた作品を発表している。

 飛翔という行為や飛ぶメカニズムへの関心、さらには76年に「アントウェルペン飛行船製造会社」を設立し、結局は失敗したがそれを事業として展開しようとする野心もあって、パナマレンコはしばしばレオナルド・ダ・ビンチにたとえられる。だがパナマレンコの飛行への強い関心は人間の身体性への関心にも根ざしており、現代文明のテクノロジー礼賛とは明らかに一線を画している。実際に飛べない作品のなかに、ギリシア神話イカロスの翼を彷彿(ほうふつ)させる悲劇的アイロニーを指摘する声も聞かれる。

 ドクメンタに出品するなど国際展での実績も豊富で、「人間と物質」展(1970。東京都美術館ほか)に出品し、また92年(平成4)には大規模な個展が日本各地を巡回するなど、日本のアート・シーンでも長年にわたって親しまれている。作品制作の様子は、クラウディオ・パチエンツァClaudio Pazienza(1962― )監督ドキュメンタリー映画『パナマレンコ』(1997)によっても一部紹介されている。

[暮沢剛巳]

『Der Mechanismus der Schwerkraft, Geschlossene Systeme der Geschwindigkeitsveränderung (1975, Edition Marzona, Bielefeld)』『「パナマレンコ」(カタログ。1992・東急Bunkamuraザ・ミュージアムほか)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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