人力飛行機(読み)じんりょくひこうき

日本大百科全書(ニッポニカ)「人力飛行機」の解説

人力飛行機
じんりょくひこうき

機械的動力を利用せず、人間の力だけで地上滑走し、離陸、飛行する航空機。このため人力飛行機の性能は、操縦者兼動力である人間の体力に大きく左右される。

[野口常夫]

原理と機体

人間が出すことのできる力は、瞬間的には大きいが、時間とともに減少していく。普通の成人男子の場合、3分間連続して出せる力は0.3~0.4馬力である。このような小さな力で人間と機体の重量を空中に持ち上げなければならないため、人力飛行機の開発には技術的に困難な多くの問題がある。もっとも重要なことは、空気抵抗を減らし、機体をいかに軽くするかである。このため、主翼はグライダーのように大きな縦横比(翼幅/平均翼弦)をもち、高度2~3メートルの低空飛行によって地面効果(地面の影響で機体の周りの空気の流れが変化し、機体の空気抵抗が減少すること)を利用して飛ぶ。機体の材料は、主要部分にヒノキ、スプルース(ベイトウヒ。マツ科の常緑針葉樹)、ジュラルミン、クロモリパイプ(非常に強度の高い薄肉の軽量スチールを素材として使用したパイプ)などを使用し、その他の部分にはバルサ、スチレンペーパー、和紙などの軽いものが使われている。1980年代なかば以降、機体にはカーボンファイバー、ポリエステルフィルム、発泡スチロールなどの新材料が使用され、いっそう軽量でかつ強度が高められている。

[野口常夫]

歴史

人力飛行機の研究の歴史は古く、中世ルネサンス時代の天才レオナルド・ダ・ビンチが、はばたき人力飛行機を研究した記録が残っている。本格的な人力飛行機の研究はドイツのヘスラーHelmut HasslerとウィリンガーFranz Villingerによって行われ、1936年ゴム索の力を利用して離陸した機体が712メートルの飛行に成功した。またイタリアではボッシBossiとボノミBonomiが高性能ソアラーを改良した機体で1936年初飛行に成功した。しかし、これらの機体は離陸にゴム索を利用しているため、完全な人力飛行とはいえない。1961年11月9日、イギリスのサウサンプトン大学が世界初の人間だけの力による人力飛行機サンパックSUMPACを開発、飛行に成功した。飛行距離は64メートルであった。日本では日本大学理工学部のリネットⅠ型Linnet Ⅰが1966年(昭和41)2月6日、東京・調布(ちょうふ)飛行場で43メートルの初飛行に成功し、さらに日大グループの製作したストークStorkは1977年1月2日、2093.9メートルを飛び世界新記録を樹立した。1977年8月23日、アメリカのポール・マクレディーPaul MacCreadyの設計したゴサマー・コンドルGossamer Condorは、8字旋回飛行を行いクレイマー賞を獲得した。

 クレイマー賞は、イギリスの実業家クレイマーHenry Kremerによって提唱され、1/2マイル(805メートル)の両端の標識の間を初めて8字旋回飛行した者に500ポンドの賞金を出すというもので、またイギリス海峡初横断には10万ポンドの賞金が規定されていた。マクレディーはゴサマー・コンドルをもとにしてゴサマー・アルバトロスGossamer Albatrossを製作し、1979年6月12日、人力飛行機によるイギリス海峡の初横断に成功した。

 1988年4月23日、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)が制作した人力飛行機「ダイダロス」は、ギリシアのクレタ島からサントリーニ島まで116.6キロメートルを飛行し、世界記録を樹立した。パイロットはギリシアの自転車ロードレースのチャンピオンであったカネロス・カネロプロスで、ギリシア海軍の全面的な協力を得て行われた。この飛行は、ギリシアのイカロスの伝説を現代に蘇らせようと、マサチューセッツ工科大学が計画し、その物語にちなんでクレタ島からギリシア本土に飛行する計画であったが、季節風の影響でサントリーニ島に変更し、実施された。

 日本では、1977年(昭和52)から、民法テレビ局主催の鳥人間コンテストが琵琶湖(びわこ)湖畔で毎年夏に開催され、滑空機とともに人力飛行機も参加して飛行距離の競技を行っている。1998年(平成10)8月1日、チームエアロセプシーの制作した人力飛行機エアロセプシーは2万3688メートルを飛行した。FAI(国際航空連盟)のスポーツコードとは異なったルールで飛行が行われたため、FAIの公認記録とはなっていない。

[野口常夫]

『平木国夫監修『楽しい軽飛行機』(1978・カイガイ出版部)』『福本和也著『人力飛行機』(1985・光文社)』『清水幸丸編著『風の遊び・風のスポーツ入門』(1991・パワー社)』『『鳥人間』(1991・日本テレビ放送網)』『ロジャー・イェプセン著、松岡淳一訳『人力で動く乗り物』(1994・さ・え・ら書房)』『坂本明著『大図解 航空機雑学大全』(1997・グリーンアロー出版社)』『読売テレビ編『鳥人間の本』(2000・東京書籍)』『佐貫亦男著『発想の航空史――名機開発に賭けた人々』(朝日文庫)』


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精選版 日本国語大辞典「人力飛行機」の解説

じんりょく‐ひこうき ‥ヒカウキ【人力飛行機】

ペダルを踏んでプロペラを回転させるなど、人力を動力とした飛行機。じんりきひこうき。

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百科事典マイペディア「人力飛行機」の解説

人力飛行機【じんりょくひこうき】

人間の力を動力とした飛行機。人間の脚力が発揮できる瞬間最大出力は約1馬力,連続出力は0.3〜0.4馬力とされている。したがって人力のみによって離陸して水平飛行が可能な飛行機の設計製作はきわめて困難で,極端な軽量化とすぐれた空気力学的特性が要求される。世界初の人力飛行を達成したのは1961年英国サウサンプトン大学のサンパック号で,日本では1966年に日大のリネット号が成功。1979年米国のP.マクレディらが製作したゴッサマー・アルバトロス号はドーバー海峡横断に成功。

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世界大百科事典 第2版「人力飛行機」の解説

じんりょくひこうき【人力飛行機 man‐powered aeroplane】

人間のパワーを利用して飛ぶ飛行機で,FAI(国際航空連盟)のスポーツ委員会によると,次のように定義されている。すなわち,(1)空気より重い航空機であること。熱空気あるいは空気より軽いガスで浮力を助けてはならない,(2)離陸から着陸までの全区間,同じ乗員の動力と操縦で飛行し,途中でだれかが機から脱出してはならない,(3)離陸あるいは飛行のために,エネルギーを蓄える装置,例えば,ゴム紐,ゼンマイなどを備えてはならない。

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