パブリック・アート(英語表記)public art

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

パブリック・アート
public art

市民が自由に出入りできる公共空間に設置される芸術作品。道路,広場,公園など屋外の彫刻や立体造形物,公共施設内の壁画などをさす。1960年代のアメリカ合衆国で概念やことばが生まれた。都市環境の改善,都市景観の形成,地域や空間の個性表現,文化振興や文化的価値の付加といった目的で設置される。銅像彫像石碑といった記念碑モニュメント)的なもの,建物の装飾品・付属品的なものから,近年は周囲の環境や景観と調和しつつ,公共の空間をアーティストによる作品を展示する一つの美術館やギャラリーとしてとらえる傾向が強い。フランスでは 1950年代初めに,公共施設にかかる総建設費の 1%を美術品の購入・設置にあてるパーセント・プログラムが制度化された。その後,この制度は欧米に広がり,パブリック・アートの普及に影響を与えた。

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百科事典マイペディアの解説

パブリック・アート

広場や公園,ビルの前庭など公共の場に設置される作品のこと。ヨーロッパでは,公共の場に置かれる記念碑や記念的建造物などの歴史は古くからあるが,1960年代から同時代の美術作品を都市の公共空間に設置する動きが高まってきた。日本では1990年代に入って注目され始め,1994年立川市に〈ファーレ立川〉,1995年西新宿に〈新宿アイランド〉がオープンし話題となった。公共空間と美術との関係で言えば,それ以前から短期間のイベントとして市町村単位での活動も行われてきており,巨大な作品の常設設置だけではない,共同体参加型の展開も活発になりつつある。→野外彫刻

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

パブリック・アート
ぱぶりっくあーと
public art

公共芸術。美術館やギャラリーのような専用展示施設ではなく、公園や市街地、あるいは各種公共施設の敷地や建物内などに恒久的に設置される美術作品、もしくはそうした設置計画の総称。既存の作品が他所から移設されてくる場合もあるが、地方自治体がクライアントとなって、アーティストに対して設置計画に即した新作を発注する形で事業展開されるケースが主流を占める(委託によって成立していることから、このような事業形態をコミッション・ワークと呼ぶ)。
 しばしば町おこしと結びつけられ、また都市計画やランドスケープ・デザインと並行して考えられることの多いパブリック・アートだが、芸術作品の公共性を問う議論は、古代ギリシアにまでさかのぼる古い歴史を持っている。ドイツの哲学者ユルゲン・ハバーマスによれば、芸術の公共性を保証する公共圏という概念は18世紀には成立していた。また第一次、第二次両世界大戦間の1930年代のアメリカでは、事業促進局(WPA=Works Progress Administration)がニューディール政策の一環として「連邦美術計画」に基づいて公共建築のためにアーティストを動員し、バスや飛行機のターミナルや放送局、学校、集団住宅などを壁画で飾り、修景事業とアーティストの失業対策とを同時に展開したこともある。
 こうした長年の理論や実践の蓄積は、60年代になってパブリック・アートという新たな動向として花開く。ちょうどこの時代には、美術館の外に展開の場を求めるアースワークやサイト・スペシフィック(特定の場所と分かちがたく結びつく美術作品の性質)な作品が隆盛を迎え、美術と公共空間との関係に対する高い関心を生みだしていた。ラス・ベガスのけばけばしいネオンサインを、むしろ都市の生態系に即した機能として肯定的に評価してみせた建築家ロバート・ベンチューリらの議論も、都市計画としてのパブリック・アートを肯定する役割を果たしている。
 また積極的な文化支出を働きかけるフランスの文化政策に影響を受ける形で、1963年にはアメリカで、大規模な公共施設の建築にあたって、総予算の1パーセントを芸術作品の購入や設置に充当することを定めた「1パーセント法」が成立。法による制度的擁護とフィランスロピー(社会貢献)に基づく支援を得るパブリック・アートの動向は、以後一層勢いづくことになった。その国際的な影響は日本にも及んでおり、東京の「ファーレ立川」(米軍基地の跡地を利用し、7街区とデパート、映画館、ホテルなどで構成される。1994)や横浜の「ゆめおおおか」(上大岡駅再開発事業の一環として建設された大規模ビル。1997)のような大規模なプロジェクトをはじめ、各自治体でも積極的にパブリック・アートを取り入れた修景事業が実施されている。もっとも、バブル期の拝金主義を反映した華美な作品の設置などには、むしろ本来の都市景観を損ねているという批判も少なくない。
 ところで、パブリック・アートをめぐる議論のうち、けっして回避できないのがパブリックという概念の二重性である。古代の洞窟絵画や宗教芸術を引き合いに出すまでもなく、芸術は昔から公共的な存在と考えられており、それゆえその専用展示施設である美術館は誰に対しても開放されている。ところがパブリック・アートは、本来パブリックであるはずの美術作品に屋上屋を架すかのように再度パブリックと命名し、また作品展開の場を美術館という美術の公共性を保証する施設の外に求めるなど、歴史的に形成されてきた美術の公共性をめぐる社会的合意と多くの点で対立している。パブリック・アートをめぐる議論がさらに深められねばならない所以(ゆえん)だが、その意味で、昨今急速な発展を遂げたインターネットは、パブリック・アートの新たな展開の場としても注目に値する。無限で、また原理上誰に対しても開かれているが、しかし積極的な関与なしには空間そのものの共同性が明らかにならないインターネットの性格は、まさにパブリック・アートの本質にも対応するものと考えられる。[暮沢剛巳]
『ロバート・ヴェンチューリほか著、石井和紘ほか訳『ラスベガス』(1978・鹿島出版会) ▽ユルゲン・ハーバーマス著、細谷貞雄ほか訳『公共性の構造転換』(1994・未來社) ▽カトリーヌ・グルー著、藤原えりみ訳『都市空間のなかの芸術』(1997・鹿島出版会)』

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