日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハバーマス」の意味・わかりやすい解説
ハバーマス
はばーます
Jürgen Habermas
(1929― )
20世紀後半の社会理論を代表するドイツの哲学者、社会学者。ボン大学で学んだのち、1961年「公共性の構造転化」に関する論文で教授資格を取得。ハイデルベルク大学準教授を経て、1964年アドルノの後を継いでフランクフルト大学教授、社会研究所長を兼ねる。一時マックス・プランク研究所(ミュンヘン)に転出したが、再度フランクフルト大学教授。いわゆるフランクフルト学派の第二世代を代表する理論家。アドルノ、マルクーゼら第一世代の思想を継承発展させるとともに、精力的にその理論的展開に努め、ポパーらに対する実証主義論争、ガダマーに対する解釈学論争、ルーマンに対するシステム論争など、多くの論争を通じて国際的脚光を浴びる。
1970年代以降、しだいに弁証法などドイツ意識哲学の用語使用を避けるようになり、英米学界における、いわゆる言語論的転回に対応する形で、言語理論と社会的行為論の統合を目ざすコミュニケーション的行為の理論の体系化を図る。他方では、アドルノのペシミズムやデリダなどのいわゆるポストモダン風潮を批判して未完のプロジェクトとして近代を擁護し、多元的な社会における法や道徳など社会規範の基礎づけを目ざすなど、かつてのフランクフルト学派から脱皮しようとする新しい姿勢が目だった。しかし、生活世界の植民地化への批判などには、かつての疎外論のモチーフが生きており、1980年代以来の歴史修正主義をめぐる論争などを含め、1993年にフランクフルト大学を定年退職した後も、理論的著作や時事的発言によって活発な批判的活動を続けている。だが2002年以降、ハバーマスから社会研究所を継いだ次の世代からは、彼のコミュニケーション行為論とフーコーの権力論を統合しようとする新しい主張も提起されている。
[徳永 恂]
『ユルゲン・ハーバーマス著、細谷貞雄訳『理論と実践』(1975/新装版・1999・未来社)』▽『ユルゲン・ハーバーマス著、長谷川宏訳『イデオロギーとしての技術と科学』(1975・紀伊國屋書店)』▽『ユルゲン・ハーバーマス著、奥山次良・八木橋貢・渡辺祐邦訳『認識と関心』(1981/復刊版・2001・未来社)』▽『ユルゲン・ハーバーマス著、河上倫逸・徳永恂・脇圭平他訳『コミュニケイション的行為の理論』上中下(1985~1987・未来社)』▽『ユルゲン・ハーバーマス著、藤沢賢一郎・忽那敬三訳『ポスト形而上学の思想』(1990・未来社)』▽『ユルゲン・ハーバーマス著、清水多吉・木前利秋・波平恒男・西阪仰訳『社会科学の論理によせて』(1991・国文社)』▽『ユルゲン・ハーバマス著、三島憲一・山本尤・木前利秋・大貫敦子訳『遅ればせの革命』(1992・岩波書店)』▽『細谷貞雄・山田正行訳『公共性の構造転換 市民社会の一カテゴリーについての探求』(1994・未来社)』▽『ユルゲン・ハーバーマス著、上村隆広他訳『新たなる不透明性』(1995・松籟社)』▽『ユルゲン・ハーバーマス著、徳永恂他訳『過ぎ去ろうとしない過去』(1995・人文書院)』▽『河上倫逸編訳『法と正義のディスクルス――ハーバーマス京都講演集』(1999・未来社)』▽『ユルゲン・ハーバマス著、三島憲一・轡田収・木前利秋・大貫敦子訳『近代の哲学的ディスクルス』全2巻(1999・岩波書店)』▽『ユルゲン・ハーバーマス著、清水多吉監訳『史的唯物論の再構築』(2000・法政大学出版局)』▽『ユルゲン・ハーバマス著、三島憲一・中野敏男・木前利秋訳『道徳意識とコミュニケーション行為』(2000・岩波書店)』▽『中岡成文著『ハーバーマス――コミュニケーション行為』(1996・講談社)』▽『マーティン・ジェイ編、竹内真澄監訳『ハーバーマスとアメリカ・フランクフルト学派』(1997・青木書店)』▽『豊泉周治著『ハーバーマスの社会理論』(2000・世界思想社)』▽『小牧治・村上隆夫著『ハーバーマス』(2001/新装版・2015・清水書院)』