日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒドロキシカルボン酸」の意味・わかりやすい解説
ヒドロキシカルボン酸
ひどろきしかるぼんさん
hydroxycarboxylic acid
同じ分子内にヒドロキシ基-OHとカルボキシ基-COOHの両基をもつ化合物の総称。オキシ酸、オキシカルボン酸ともよばれる。アルコールのヒドロキシ基をもつ脂肪族のヒドロキシカルボン酸と、フェノールのヒドロキシ基をもつ芳香族のヒドロキシカルボン酸がある。
脂肪族ヒドロキシカルボン酸で、ヒドロキシ基とカルボキシ基が同じ炭素原子上に結合しているものをα(アルファ)-ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシ基とカルボキシ基が隣り合った炭素原子上にあるものをβ(ベータ)-ヒドロキシカルボン酸といい、さらにヒドロキシ基とカルボキシ基が遠くなるにしたがって、γ(ガンマ)-、δ(デルタ)-、ε(イプシロン)-……ヒドロキシカルボン酸という。
脂肪族ヒドロキシカルボン酸はアルコール酸ともいわれ、乳酸、酒石酸、クエン酸など、動植物界に広く分布していて代謝に関与している重要な化合物が多い。
芳香族ヒドロキシカルボン酸としてはサリチル酸、没食子酸(ぼっしょくしさん)が有名である。これらの化合物はいずれもフェノールのヒドロキシ基とカルボキシ基の両方をもっている。
製法は個々の化合物により異なるが、一般的な方法としては、相当するアルデヒド酸およびケト酸の還元、ハロゲノカルボン酸の加水分解などにより合成される。カルボキシ基をもつので溶液は酸性を示し、塩やエステルを生成するほかに、アルコールやフェノールの性質も兼ね備えている。ヒドロキシ基とカルボキシ基は、ともに親水基であるので、同じ骨格の脂肪酸やアルコールに比べると水に溶けやすいが、有機溶媒には溶けにくい。一般に固体のものが多く、沸点が高いので、常圧で蒸留すると分解をおこす。
ヒドロキシカルボン酸に特有な反応として、同じ分子内のヒドロキシ基とカルボキシ基がエステル化をおこしてラクトンを生成する反応が知られている。この反応をラクトン化といい、γ-およびδ-ヒドロキシカルボン酸から5員環のγ-ラクトンおよび6員環のδ-ラクトンを生成する反応はおこりやすい。とくに、 に示したγ-ヒドロキシ酪酸(γ-ヒドロキシカルボン酸の一種)から5員環のγ-ブチロラクトン(γ-ラクトンの一種)を生成する反応は非常におこりやすいために、通常の方法でγ-ヒドロキシ酪酸を合成することはむずかしく、γ-ブチロラクトンができてしまう。
[廣田 穰 2015年7月21日]