環内にエステル基-COO-をもつ複素環式化合物の総称。環の大きさにより、4員環のβ(ベータ)-ラクトン、5員環のγ(ガンマ)-ラクトン、6員環のδ(デルタ)-ラクトン、……に分類される。β-、γ-ラクトン、……は、それぞれβ-、γ-ヒドロキシカルボン酸の環状エステルの構造をもつ。ラクトンの生成しやすさは環の大きさにより異なり、5員環のγ-ラクトンがもっとも安定で生成しやすく、ついで6員環のδラクトンが生成しやすい。ラクトン環が安定であるのでγ-およびδ-ヒドロキシカルボン酸は自発的に分子内脱水反応により環化してラクトンになるが、α-およびβ-ヒドロキシカルボン酸が自発的にラクトンになることはない。ラクトンは環状ケトンのバイヤー・ビリガー反応により合成できる。性質はエステルに似ていて、普通のラクトンは中性の液体である。エタノール(エチルアルコール)、エーテルなどの有機溶媒によく溶けるほか、低分子量のものは水にも溶ける。12員環以上の大環状ラクトンはマクロリドまたはマクロライドとよばれていて、エリスロマイシンなどの抗生物質や抗癌剤(こうがんざい)の基本骨格をなしている。
[廣田 穰 2016年11月18日]
ラクトンの多くのものは芳香があり、食品ではアンズ、モモなどの果物やバターなどの乳製品、また、ジャスミンなどの花やじゃ香といった多くのものの芳香成分として天然に存在する。これらから抽出し、食品、香水などの着香料として利用している。ラクトン類は、食品添加物の着香料の一種で、「毒性が激しいと一般に認められるものは除く」という注釈付きで認可されている。
[河野友美・山口米子]
『中島基貴編『香りの技術動向と研究開発』(2004・フレグランスジャーナル社)』
分子内に-COO-をもつ複素環式化合物の総称で,オキシ酸のカルボキシル基-COOHと水酸基-OHとの反応により生じた分子内エステルにあたる。4員環のものをβ-ラクトンと呼び,順次環員数が増えるにつれてγ-,δ-,ε-,……ラクトンと呼ぶ。β-ラクトンから大環状ラクトンまで知られているが,γ-ラクトンが最も安定でδ-ラクトンがこれに次ぐ。各種の果実の中に微量に含まれるクマリンはo-オキシケイ皮酸のラクトンである。
ラクトンは普通エステルに似た中性の液体で,エチルアルコール,エーテルなどの有機溶媒によく溶ける。水酸化アルカリを作用させると開環して相当するオキシ酸の塩となる。γ-ラクトンやδ-ラクトンはオキシ酸の脱水により容易に得られる。β-ラクトンはルイス酸触媒の存在下にカルボニル化合物とケテンの反応で合成される。
ラクトンの多くは芳香をもち香料として用いられるものが多い。とくに14~17員環の大環状ラクトンは麝香(じやこう)の香りをもつことでよく知られている。
執筆者:井畑 敏一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ヒドロキシ酸のカルボキシル基とヒドロキシ基との間で,エステル化してできた環状分子内エステル.γ-ラクトン,δ-ラクトンが代表的な例であり,対応するヒドロキシ酸やハロカルボン酸の蒸留,あるいはグルタル酸,アジピン酸などジカルボン酸の銀塩をヨウ素と加熱すると得られる.ラクトンは一般に芳香をもつ液体で,低分子量のものは水,エタノール,エーテルに易溶.水酸化アルカリまたはアンモニアの作用により開環し,相当するヒドロキシ酸の塩またはアミドになる.δ-ラクトンは放置すると重合してポリエステルになる.β-ラクトン,ε-ラクトン,大環状ラクトンも合成されており,天然物も多い.ラクトンの合成法としては,γ-ラクトンのようにγ-ヒドロキシ酸をつくると自然に脱水生成する場合もあるが,対応するハロゲン酸のアルカリによる脱ハロゲン化水素反応や環状ケトンの過酸酸化(バイヤー-ビリガー反応)が用いられる.これらのラクトンは開環重合してポリエステルになりやすい.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…たとえばCH3CH2COOC2H5は,プロピオン酸とエチルアルコールから生成するから,プロピオン酸エチルと呼ぶ。カルボキシル基-COOHと水酸基-OHが同一分子内にあるカルボン酸から生成し,分子内で環状エステルをつくっているものをラクトンといい,環の大きさにより,β‐ラクトン(4員環),γ‐ラクトン(5員環)などという。カルボン酸エステルは,天然には動植物体内に脂肪および蠟の形で蓄えられている。…
※「ラクトン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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