ヒユ(読み)ひゆ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒユ」の意味・わかりやすい解説

ヒユ
ひゆ / 莧
[学] Amaranthus tricolor L. var. mangostanus (L.) Aellen

ヒユ科(APG分類:ヒユ科)の一年草。毛はなく、茎は直立し、高さ約1メートル。葉は菱(ひし)状の卵形で緑色、長さ約10センチメートルになる。花期は8~10月。頂生する花序は穂状であるが、腋生(えきせい)の花序は球形。花被(かひ)は目だたず、普通は3枚。包葉の先は毛状。ハゲイトウは本種から改良されたもので、花序は頂生しない。野菜のバイアムヒユナ)は葉が長さ20センチメートルになり、柔らかく、病害虫に強い。ヒユ属は世界に約60種知られ、日本にも10種余りが野生する。アオビユは包葉の先が刺(とげ)状で、ヒユと並ぶ史前帰化植物である。他種の多くは明治以降の帰化植物で、ハリビユ葉腋に一対の刺があり、ハイビユは地面をはう。ヒユ属とケイトウ属はよく似ているが、ヒユ属は胚珠(はいしゅ)が1個、ケイトウ属Celosiaは2~8個ある点で区別される。ヒユ属でもケイトウの名がつく種類がある。それらは花被と雄しべが5個で、ヒユ類は3個である。アオゲイトウは茎に毛があり、花序は短い。ヒモゲイトウは花序が紅色で、1メートルも垂下する。観賞するほか穀物として扱われ、センニンコクの名がある。スギモリゲイトウは花序が分枝し、大きく、普通、黄色を帯びる。

[湯浅浩史 2021年2月17日]

文化史

ヒモゲイトウはアンデス、スギモリゲイトウはメキシコで、有史前から栽培され、種子を穀物として食べた。メキシコのテワカン洞窟(どうくつ)から紀元前7000~前5000年のヒユ属が出土している。スペイン侵入前は、メキシコの主食の一つであった。現在もヒマラヤから中国西部の山地で栽培される。野菜としてのヒユは古代のギリシアで栽培が始まり、テオフラストスイヌビユキュウリと同じく、4月に種子を播(ま)いて育てる夏野菜に分類した(『植物の調査』)。中国でも古くから食用にされ(『斉民(せいみん)要術』)、日本では10世紀の『和名抄(わみょうしょう)』に野菜(当時は野の菜の意味)として名があげられている。江戸時代は広く栽培された。

[湯浅浩史 2021年2月17日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ヒユ」の意味・わかりやすい解説

ヒユ
Ganges amaranth
Amaranthus tricolor L.

薬用または観賞用に栽培される,インド地方原産のヒユ科の一年草。葉に紅色や黄色などの美しい色彩をもつ変異型がある。種小名tricolor(3色の)はこのような変異にちなんだものである。茎は高さ80~170cm,無毛。葉はひし形またはひし形状卵形で長さ4~12cm,長い葉柄がある。花は日本では8~10月,頂生および腋生(えきせい)の穂状花序につく。頂生の花序は長く伸び,枝分れしない。花は単性花で,雌雄同株。雄花と雌花は入りまじってつく。花の基部には先のとがった苞がある。花被片は3枚あり,苞と同長で緑色。雄花には3本のおしべがある。果実は長楕円形で,花被片より短い。中に1個の種子がある。種子はレンズ形,黒色で光沢がある。全草薬用となり,解毒剤として利用され,種子は眼疾の治療にされる。若い植物体は熱帯域で広く野菜として食用にされる。ハゲイトウはこれから育成された,花序がすべて腋生となる栽培の系統で,葉形や葉の色彩にはいろいろな変異型がある。葉を観賞するために頂生花序の退化した系統が選抜されたものと思われる。

 ヒユ属Amaranthus(英名amaranth)は約60種を含み,多くの種が熱帯アメリカに分布する。日本には野生種はないが,10種以上が帰化している。中でもアオゲイトウA.retroflexus L.(英名pigweed),ホソアオゲイトウA.patulus Bertoloui,ホナガイヌビユA.viridis L.,イヌビユA.lividus L.の4種は日本全土に広がっており,市街地の荒地に普通に見られる。これら4種は熱帯アメリカ原産といわれているが,現在では汎(はん)世界的に広がっており,本来の分布域は正確にはわからない。アオゲイトウとホソアオゲイトウは花被が5枚あり,後者は前者に比べて花穂が細い。イヌビユとホナガイヌビユは花被が3枚あり,後者は前者に比べ花穂が細く,尾状に伸びる。4種ともに若菜は食用となる。ホナガイヌビユは全草薬用となり,解熱剤,解毒剤に用いる。しばしば栽培されるものにセンニンコクA.caudatus L.(英名Inca wheat,love-lies-bleeding)とスギモリゲイトウA.paniculatus L.がある。いずれも熱帯アメリカ原産。センニンコクは,頂生の花序が尾状に伸びて垂れ下がり,この性質からヒモゲイトウの名もある。中国や東南アジアでは食用および飼料用の穀物として栽培される。スギモリゲイトウは花穂も含めて全草暗紅色で,観賞植物として世界中で栽培される。中国や東南アジアでは種子を食用とし,また若い葉や茎を蔬菜(そさい)とする。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒユ」の意味・わかりやすい解説

ヒユ
Amaranthus inamoenus; amaranth

ヒユ科の一年草,ヒョウまたはヒョウナともいう。インド原産といわれ,マレー半島や中国では野菜として広く栽培される。日本にも古くから伝わり,山間の人家などで栽培されていたことがあるが,近時はあまりみられない。茎は直立して上部でまばらに分枝し,無毛,またはときに軟毛が散生し,緑色または褐色を帯びて高さ 1.5mにもなる。葉は長い柄をもつ菱状卵形で開出してつく。葉の色も緑色のもののほか,紫色,紅色のものもあり観賞価値のある品種もある。夏から秋にかけて,茎頂や上部の葉腋に白緑色の小花が球状に集り,茎頂ではさらに長い穂を形成する。花被片は3枚。種子は楕円形または円形で,黒色で光沢がある。

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百科事典マイペディア 「ヒユ」の意味・わかりやすい解説

ヒユ

ヒョウとも。ヒユ科の一年草。インド原産といわれ,若葉を食べるため,まれに暖地の畑に植えられ,ときに野生化している。茎は直立し,少し分枝して,高さ1m内外,柄の長い,菱形(ひしがた)状卵形の葉を互生する。葉が紅色,暗紫色,紫斑のあるものなどもある。8〜9月茎頂や葉腋から花穂が出,緑色の小花が球形に集まって,だんご状に咲く。ヒユから育成された観葉植物にハゲイトウがある。

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