日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビトルージー」の意味・わかりやすい解説
ビトルージー
びとるーじー
Nūr al-dīn Abū Isāq al-Birūjī al-Ishbīlī
生没年不詳。12世紀後半のイスラムの天文学者。ラテン名はアルペトラギウスAlpetragius。スペイン出身。最初はキリスト教徒で、のちイスラム教徒になった。イブン・トゥファイルの門人で、天動説の立場をとり、K・プトレマイオスの周転円説や離心円説に反対した。その著書『天文の書』Kitāb alhai'aでは、ギリシアのエウドクソスやアリストテレスらが唱えた同心天球説を改良しようとした。ビトルージーは、この説を春(秋)分点の振動という考えと結び付けていろいろな方法で修正した。それによると、あらゆる天体はそれぞれの天球に固定されていて、それらを動かす原動力primum mobileは、恒星天球の外側にある第九天球である。この原動力は、あらゆる天球に東から西への運動を与える。この運動は、第九天球がもっとも速く、原動力からの距離が遠くなるにつれて遅くなる。たとえば恒星は24時間で1回転するが、月は約25時間かかる。この考えは、間違ってはいるが、イスラム天文学を概観する際は無視できない。
[平田 寛]