ビリー・バッド(読み)びりーばっど(英語表記)Billy Budd

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビリー・バッド」の意味・わかりやすい解説

ビリー・バッド
びりーばっど
Billy Budd

アメリカの作家、H・メルビル遺作となった中編小説。作者死後の1924年刊。18世紀末のイギリス海軍を舞台に、純朴無垢(むく)な青年水兵ビリーが、彼の純朴さに嫉妬(しっと)する先任衛兵伍長(ごちょう)に、身に覚えのない暴動陰謀を告発され、怒って興奮のあまり伍長を殴り殺してしまう。上官殺しの罪で処刑されるとき、「艦長に神の祝福あれ!」というビリーの叫びに、この悲劇にまつわる哀感が無限の余韻を響かせる。根源的無垢と悪、暴力と体制、人間の実存と法秩序といった永遠の主題を追究した傑作

[杉浦銀策]

『坂下昇訳『ビリー・バッド他』(『メルヴィル全集10』所収・1982・国書刊行会)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ビリー・バッド」の意味・わかりやすい解説

ビリー・バッド
Billy Budd, Foretopman

アメリカの小説家ハーマン・メルビルの中編小説。 1891年,死の直前に完成。 1924年に R.ウィーバーが出版,メルビル再評価の契機をつくったが,62年完全な形のものが H.ヘイホードと M.シールツの編集により刊行された。 1797年英仏両国の戦争中,イギリス軍艦に乗組む無邪気な水夫ビリーは,彼の無垢な美しさをねたみ誣告した伍長クラガートを怒りのあまり殺してしまう。ビア艦長は,ビリーの潔白を信じつつも軍紀を守るため彼を処刑する。懐疑の淵を抜け出た作者の清朗心境をうかがわせる傑作。これをもとにした B.ブリテンオペラ (1951) がある。

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