ビルロート(読み)びるろーと(英語表記)Christian Albert Theodor Billroth

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビルロート」の意味・わかりやすい解説

ビルロート
びるろーと
Christian Albert Theodor Billroth
(1829―1894)

オーストリア外科医。近代腹部外科の基礎をつくった。リューゲン島に生まれ、先祖はスウェーデン系である。グライフスワルトゲッティンゲンベルリンの各大学で学び、1853~1860年ベルリン大学外科のランゲンベックBernhard von Langenbeck(1810―1887)の助手を勤め、1860年からチューリヒ大学の外科教授、1867年ウィーン大学に転じた。1872年最初の食道切除、1881年癌(がん)に冒された胃幽門切除の成功など、多くの肢部臓器の手術法を、動物を用いての試みを含む周到な準備と大胆な施術で開発した。胃癌の切除後に胃と十二指腸を直接縫合することをビルロートI法といい、胃を空腸に吻合(ふんごう)することを同じくⅡ法というが、その呼称は今日も用いられている。病理学者としても優れており、つねに自分の手術成績を反省していた。また音楽愛好者としても知られており、ブラームスとは終生親交があった。

中川米造

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改訂新版 世界大百科事典 「ビルロート」の意味・わかりやすい解説

ビルロート
Theodor Billroth
生没年:1829-94

ドイツ医学者。胃切除術の開発で知られ,内臓外科学の父と称される。ゲッティンゲン大学とベルリン大学で医学を学び,1856年にベルリン大学講師となり,病理学的研究に従事,60年にチューリヒ大学外科学教授,67年から25年間,ウィーン大学外科学教授を務めた。外科学におけるウィーン学派創始者で,外科学者としてのおもな成果は,81年に胃癌に対して最初の胃切除を行ったことである。彼の胃切除術式はビルロート第1法および第2法の名で,今日でも用いられている。音楽家として,またブラームスの友人としても知られている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ビルロート」の意味・わかりやすい解説

ビルロート
Billroth, (Christian Albert) Theodore

[生]1829.4.26. リューゲン島,ベルゲン
[没]1894.2.6. アブバジア
オーストリアの外科医。近代腹部外科の創始者。 1860~67年,チューリヒの外科診療所所長。 67年オーストリアに戻り,ウィーン大学で内臓外科を始めた。 72年に食道切除術,81年,胃癌の幽門切除術に初めて成功。そのほか腸の切除および縫合法の開発に業績が多く,内臓外科の発展に大きく貢献した。主著『外科的病理学と療法総論』 Die allgemeine chirurgische Pathologie und Therapie (1863) 。

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世界大百科事典(旧版)内のビルロートの言及

【胃切除】より

…この切除と再建を含めて胃切除術という。胃切除に最初に成功したのはウィーン大学のビルロートTheodor Billroth(1829‐94)で,彼は1881年胃癌の婦人に行って成功した。その後,細かい技術や原理に対する考え方の変遷はあったが,彼の胃切除術は基本的には今日でも踏襲されている。…

【脾臓】より


[脾臓の構造]
 表面は平滑筋を含んだ繊維性の被膜capsulaでおおわれ,脾臓の割断面は煉瓦色の部分,赤色髄red pulpと灰白色のアワつぶ状の結節,白色髄white pulpに区別される。赤色髄の構造はウィーンの外科医ビルロートTheodor Billroth(1826‐94)によって明らかにされた。一方,リンパ球の集合からなるリンパ組織である白色髄はM.マルピーギによって発見され,それにちなんでマルピーギ小体ともよばれる。…

【胃切除】より

…この切除と再建を含めて胃切除術という。胃切除に最初に成功したのはウィーン大学のビルロートTheodor Billroth(1829‐94)で,彼は1881年胃癌の婦人に行って成功した。その後,細かい技術や原理に対する考え方の変遷はあったが,彼の胃切除術は基本的には今日でも踏襲されている。…

【手術】より

… 19世紀に入って,アメリカのロングCrawford Williamson Long(1842),ウェルズHorace Wells(1844),W.T.G.モートン(1846)やイギリスのシンプソンJames Young Simpson(1847)らによる全身麻酔法,L.パスツール(1861)の腐敗現象は空気中の微生物によるという報告に基づいたI.P.ゼンメルワイス(1847),J.リスター(1867)らによる制腐消毒法,ベルクマンErnst von Bergmann(1886)やシンメルブッシュCurt Schimmelbusch(1889)による無菌法,エスマルヒJohann Friedrich August von Esmarch(1823‐1908)による駆血帯の使用は,その後の外科手術を飛躍的に進歩させることとなった。すなわち,ランゲンベックBernhard Rudolf Conrad von Langenbeck(1810‐87)の子宮全摘出術,ティールシュCarl Thiersch(1822‐95)の植皮術,フォルクマンRichard von Volkmann(1830‐89)の直腸癌手術,ビルロートTheodor Billroth(1829‐94)の胃切除術の成功例が報告されるようになった。20世紀に入ると,G.ドーマク(1932)によるサルファ剤の発見,A.フレミング(1929)によるペニシリンの発見はその後の多くの抗生物質発見の引金となり,それによって,それまで実施不可能であったような大きな手術もできるようになった。…

【脾臓】より


[脾臓の構造]
 表面は平滑筋を含んだ繊維性の被膜capsulaでおおわれ,脾臓の割断面は煉瓦色の部分,赤色髄red pulpと灰白色のアワつぶ状の結節,白色髄white pulpに区別される。赤色髄の構造はウィーンの外科医ビルロートTheodor Billroth(1826‐94)によって明らかにされた。一方,リンパ球の集合からなるリンパ組織である白色髄はM.マルピーギによって発見され,それにちなんでマルピーギ小体ともよばれる。…

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