精選版 日本国語大辞典 「病理学」の意味・読み・例文・類語
びょうり‐がく ビャウリ‥【病理学】
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病気、疾病の科学(サイエンス)ともいわれ、疾病の原因、経過、結果などを含む疾病の本態を究明する学問をいう。
[渡辺 裕]
医学固有の専門学科目は、通常、基礎医学と臨床医学に大別されるが、病理学は、基礎医学、あるいは両者に深く関連を有する意味で用いられる臨床基礎医学とみなされ、重要な学問領域と考えられている。疾病とは、健康で正常な生活を営んでいる人が形態的、機能的、精神的な異常状態を示すことを意味しているわけであり、正常な構造を理解するために必要な解剖学、組織学、あるいは正常な機能を知るための生理学、生化学などの基礎医学の十分な習熟が病理学の学習にとって必要なものとなる。また、疾病の原因としての細菌、微生物、寄生虫などを詳細に究明する細菌学、微生物学、寄生虫学などは、本来、病理学から分岐して生じた基礎医学領域である。
病理学の歴史を考えることは、とりもなおさず疾病に対する考え方の変遷ということになる。すなわち、「狐憑(きつねつ)き」といった表現にみられるような妖魔(ようま)説、疾病は体液の混合調和の異常に起因するとした体液説など、数多くの宗教的、哲学的、科学的な考え方の移り変わりを経て、今日の病理学へと発展してきたわけである。近代病理学の基礎的体系の確立には、ルネサンス以降の人体の解剖による疾病の実態の把握が大きく貢献した。疾病の座を強調する臓器病理学、細胞の詳細な観察を主とする細胞学などの発展を経て、なかんずく、19世紀のドイツの病理学者ウィルヒョウの細胞病理学の樹立によって、臓器、組織、および細胞の構造あるいは形態的変化の追究を基盤とする病理解剖学が、病理学の主流として確固たる地位を築いたわけであり、医学の進歩に向けても主導的役割を果たしてきた。
しかしながら、疾病の診断および治療にあたっては、生体に現れる病的状態が疾病である以上、病的な形態は、当然、病的な機能との関連づけが必要であるとされ、病床における病理学という意味の臨床病理学の重要性が新たに認識されるようになっていく。すなわち、生化学、生理学、血液学、血清学、細菌学、寄生虫学などの臨床検査にかかわる領域の学問が、その中心となり、患者の血液、尿、組織などを体外に取り出して検査するばかりでなく、心電図、脳波、肝機能、腎(じん)機能など、患者そのものを対象として検査する方法もとられ、その内容はきわめて広範になってきた。このため、現在では、いずれの医療機関においても中央検査室などの施設の整備、充実を図る一方、臨床検査技師という医療職種が確立されるようになってきている。このように病理学の占める範囲はきわめて広大であり、医学のなかにおいて、一方では基礎医学に基盤を有し、他方では臨床医学のなかにあっても重要な座を占める学問領域となっている。また、病理学には、動物実験によって疾患のモデルを研究する実験病理学、動物の疾患を対象として比較研究する比較病理学なども含まれ、医学研究においても大きな重みをなしている。
[渡辺 裕]
疾患の本態とはなにかを考えてみた場合、疾患とは、生体の内外からの原因、すなわち刺激に対する細胞、組織、臓器、系統、個体全体といった、それぞれのレベルにおける反応と理解されるわけで、反応としては、刺激に対して抵抗するか、降参するか、または適応するかの基本的な形式が想像される。したがって、疾患のサイエンスである病理学は、各組織・臓器に共通しておこりうる同種の病変を、たとえば循環障害、退行性病変、進行性病変、炎症、腫瘍(しゅよう)などに分類して論ずる病理学総論と、それぞれの病変を循環器、呼吸器、消化器、泌尿器、生殖器、血液造血器、内分泌系、神経系、運動器、感覚器などの器官別・系統別に分類して論ずる病理学各論とに教科書的に分けられるのが常である。疾患の原因を研究する病因学、先天的に認められる病的状態を研究する奇形学も病理学の幅広い守備範囲とされているが、最近では、医学研究の進歩に対応して遺伝学、免疫学などは独立した分野とされる傾向にある。
病理学の基礎は病理解剖学すなわち病理解剖にあり、これは剖検autopsyとよばれるのに対して、生体組織、あるいは手術などによって摘出された組織に対する病理学的な検査は一般に生検biopsyといわれている。剖検は、疾病の診断、経過、治療の影響などの検索に医学的根拠を与えるもので、明日の医療に貢献することが大である。したがって、医学教育機関、医療機関における剖検率の程度は、それらにおける医学、医療の質的評価の一つとしてみなされている。これに対して生検は、組織学的観察を主とするもので、最近では、組織化学的ならびに電子顕微鏡による超微形態学的検索を併用して、病理学的診断のためにしばしば用いられている。たとえば腫瘍のような疾患の場合では、その本態についての診断の確定をするために、生検の組織学的診断が不可欠となっている。臨床的には、生検の一種として、体液および分泌液に含まれる各種の細胞を観察する方法も多用されており、一般に細胞診とよばれ、悪性腫瘍の診断に有力である。このような剖検、生検を重視する病理学は、医学研究上しばしば行われる動物実験における病理学的解析を主とする実験病理学に対して、人体病理学とよばれ、現代医療における病理学の位置づけをますます高めている。
[渡辺 裕]
『飯島宗一編『病理学各論』(1979・文光堂)』▽『影山圭三・林秀男編『病理学各論』(1982・医学書院)』▽『影山圭三編『病理学』(1982・医学書院)』▽『飯島宗一・石川栄世他編『現代病理学大系』(1983・中山書店)』
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