茨城県筑波研究学園都市にある高エネルギー物理学研究所の放射光実験施設(現,高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所放射光科学研究施設)の名称。直訳すれば光子の工場であり,光速に近いスピードで運動する高エネルギー(25億eV)の電子が,その軌道を曲げられるときに軌道の接線方向に放出するシンクロトロン放射(放射光)と呼ばれる電磁波(光)を利用するもので,極紫外線からX線にわたる超強力な線源を提供できる。1977年春に建設が開始され,83年から本格的活動が始まった。
全長400mの線形加速器で25億eVに加速した電子を,長径約70m,短径50mの楕円形の貯蔵リング(ストレージリング)に導き,リングの全周に沿って置かれた偏向電磁石で電子の軌道を曲げることによって放射光を発生させる。また直線部に挿入した超伝導電磁石で電子の軌道を鋭く曲げることにより短波長(硬X線)の放射光が得られ,多数の永久磁石を並べたアンジュレーターを挿入すれば特定の狭い帯域で通常の放射光より数百倍強い光を得ることもできる。極紫外,軟X線領域の各種の気体,固体分光装置や光電子分光装置,X線領域の各種の回折装置や分光装置などが設置され,物質の原子・分子レベルの構造解析,超微量分析をはじめ,超LSI素子の回路焼付けのためのマイクロリソグラフィー,高分解能X線またはトポグラフィーによる半導体結晶素子の評価,筋肉など生体物質の動的構造変化の研究,硬X線による心臓の血管撮影など,工学,医学への応用研究も盛んになりつつある。
執筆者:高良 和武
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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