磁性体の磁化は,一般には印加した磁場の大きさで変化し,いったんある方向に磁化した後でも,それと逆方向の強い磁場を加えられるとそれに従って逆方向に磁化してしまう。しかしある種の磁性体では,逆方向に磁化するために相当大きな磁場を加えなければ逆磁化しない場合がある。このように実際上,加えた磁場によってはその磁化の大きさの変化しないものを永久磁石という。加えた磁場によって容易にその方向に磁化されやすいものを軟磁性体といい,磁化しにくいものを硬磁性体と呼ぶが,永久磁石は,硬磁性体でなければならず,この磁気的な硬さを示すのは保磁力である。磁気ヒステリシス曲線では縦軸に磁化(または磁束密度),横軸に印加磁場を取り,磁化の大きさを磁場の関数として示してある。このときにヒステリシスがあり,磁場の正方向から負方向への変化に際して磁場がゼロでも磁化が残るとき,これを残留磁化と呼ぶ。負方向に磁場を増加させていってもなかなか磁化は減少しないのが硬磁性体であるが,ついには減少を始め,磁化がゼロになるところの負方向の磁場の大きさを保磁力と定義する。したがって永久磁石は,保磁力が大きな(通常数百~数万エルステッド)硬磁性体であるともいえる。もっと厳密には,磁化の大きさもある程度以上必要であり,磁束密度 Bと磁場Hとの積(B・H)が大きなものほど蓄えている磁気エネルギーが大きいので望ましい永久磁石になる。実用的にはこのB・H積は106ガウス・エルステッドを単位として0.1程度から30程度のものが使用されている。
保磁力を大きくする原因には種々あるが,大きくいって,結晶変態,析出,超格子,微小粒子および結晶異方性の効果があげられる。結晶変態による効果では,そのために生ずる内部ひずみと磁気的不均一性が高い保磁力を与える。析出ではやはり内部ひずみが大きく発生することと,析出した微小な形状の磁性粒子が大きな磁気異方性を発生するために,保磁力が増す。これの代表的なものはMK鋼である。超格子の生成によるものは,鉄-白金あるいはコバルト-白金系で,保磁力が2万エルステッド前後と大きい。微小粒子によるものは,その単磁区構造に由来した大きな保磁力を利用するのであり,コバルトフェライトからできている。OP磁石(1933年,加藤与五郎,武井武が発明)や鉄およびFeCoパウダーなどがある。結晶磁気異方性によるものは,希土類・コバルト系のものであり,永久磁石の性能としてもっとも大きな値を示し,B・H積が約30×106ガウス・エルステッド,保磁力約2万エルステッドのものが得られている。
→磁化 →磁石
執筆者:対馬 立郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
鉄片を引き付ける磁力をいつまでも失わない物体。普通は単に磁石という。これに対し、電磁石などは電流を通している間しか磁力を示さないので、一時磁石とよぶ。縫い針を他の磁石でこすると、弱いながら永久磁石になる(炭素鋼磁石)。工業的にもっとも生産量が多いのはフェライト磁石で、アルニコ合金がこれに次ぐ。最近は希土類コバルト磁石が増えている。これらの製品は、磁気の強さ(残留磁束密度)と安定さ(保磁力)、そして総合的には磁気エネルギー(最大BH積)の大きさで評価される。
吸引力利用の小物は身辺によくみるが、永久磁石の多くは、スピーカー、メーター、小形発電機、その他各種電気機器の中に、磁界発生用部品として組み込まれている。本多光太郎(ほんだこうたろう)らのKS鋼(1920)をはじめ、MK鋼(1933)、OP磁石(1933)などの日本での発明は、この分野の発展に貢献した。
[太田恵造]
磁石として安定しているものが永久磁石である.一般に磁石として用いられるためには,残留磁化が大きいことが必要であるが,この場合,磁石内部に生じる反磁場も大きくなって,残留磁化を消す方向にはたらく.そのため,永久磁石になりうるための磁性材料は,残留磁化と保磁力が大きいことが必要である.強磁性金属のMK鋼や,フェリ磁性体のOP磁石(フェライト)などがその例である.[別用語参照]希土類磁石
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…【藪内 清】
[磁石の性質]
磁極をもつ物体,またそれが周囲につくるのと同様な磁場をつくり出す装置が磁石である。強磁性体(フェリ磁性体を含む)を用い磁化を保つようにしたものを永久磁石,導線でコイルをつくり,電流を流して磁場をつくり出すものを電磁石と呼ぶ。電磁石にはコイルの中に,強磁性体の心(磁心という)をもつものともたないものとがあり,磁心をもたないものを空心コイルとして電磁石と区別する場合もある。…
※「永久磁石」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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