シンクロトロン放射(読み)しんくろとろんほうしゃ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シンクロトロン放射」の意味・わかりやすい解説

シンクロトロン放射
しんくろとろんほうしゃ

高エネルギーの電子が磁場中で円運動あるいはらせん運動するとき、軌道の曲率中心の方向へ加速度を受け、それによって電磁波放射される。この電磁波は電子シンクロトロンで初めて観測されたので、その加速器の名にちなんでシンクロトロン放射とよばれる。放射強度は荷電粒子質量が小さいほうが大きく、電子と陽電子の場合がもっとも大きい。相対論的効果のために電子の円形加速器から得られるシンクロトロン放射は次のような特徴をもつ。(1)広い波長域にわたって連続なスペクトル分布をもっている。短波長側は急激に立ち上がり、長波長側はなだらかな尾を引いている。ピークの波長は
  λP[Å]=2.35×R[m]/E3GeV
で与えられる(Eは電子エネルギー、Rは軌道半径)。(2)指向性が高く、軌道の前方、接線方向を中心に半角がmc2/E円錐(えんすい)中に集中する(mは電子の質量、cは光速度)。(3)高度の偏光性がある。軌道面に平行な放射は、電気ベクトルが軌道面に平行な直線偏光であり、軌道面から上下に傾いた方向では楕円(だえん)偏光である。なお、これらの諸特性は理論的に計算できる。さらに(4)高周波加速のために、一定間隔で繰り返される、きわめて短いパルス光である。

 多くの電子を長時間周回させる円形加速器は電子ストーレッジリングとよばれ、シンクロトロン放射を光源として利用する場合に用いられる。電子エネルギーが数百メガボルトのときは放射スペクトル極紫外線から軟X線の波長域にあり、数ギガ電子ボルトでX線の波長域になる。これらの放射の強度は同じ波長域の他の光源に比べて桁(けた)違いに大きい。一方、天体でも高エネルギーの電子が磁場の作用でシンクロトロン放射を生じ、その電波やX線の成分が観測されている。

[菊田惺志]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シンクロトロン放射」の意味・わかりやすい解説

シンクロトロン放射
シンクロトロンほうしゃ
synchrotron radiation

高エネルギー電子が磁場中で円運動または螺旋運動をするとき,軌道中心方向の加速度を受けて電磁波を放射する現象,または放射する電磁波。磁気制動放射またはシンクロトロン軌道放射ともいう。電子の速さが真空中の光速度に近いとき放射される電磁波は,電子の進行方向に集中し,かたより(偏波,偏光)は磁場の方向と垂直である。またスペクトルは連続スペクトルで,強度が極大になる波長は電子のエネルギーの 2乗および磁場の強さに反比例する。電子シンクロトロン中の電子からは,軌道の接線方向にきわめて指向性のよい強力な偏光した放射線が出ており,可視部から X線に及ぶ広い波長領域で連続スペクトルが得られる。したがって,このシンクロトロン放射は X線から真空紫外領域での分光学的研究に盛んに用いられている。なお,電子シンクロトロンのほかに,高エネルギーの粒子を蓄積させる蓄積リングからも同様な放射線を取り出すことができ,電子シンクロトロンからの軌道放射よりも著しく強く,かつ安定な光源として利用されている。星間空間では宇宙線電子が星間磁力線と相互作用して宇宙電波を出す。またかに星雲のような超新星の残骸中では高速電子のシンクロトロン放射は可視領域にも及ぶ。

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