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フォンクーベルタ ふぉんくーべるたJoan Fontcuberta

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

フォンクーベルタ
ふぉんくーべるた
Joan Fontcuberta
(1955― )

スペインの写真家。バルセロナ生まれ。バルセロナ大学でジャーナリズムと広告を専攻する。写真は独学で習得し、1972年より写真家としての活動を開始する。バルセロナの広告代理店でコピーライターやフリーランスの写真家として働いた後、1980年にフィルム制作やグラフィック・デザイン、写真等に携わる仲間たちとともにバルセロナにスタジオを開設。1977年にはバルセロナ大学で教鞭をとるようになり、1980年に教授となる。また1982年よりスペインの文化省などの活動にフリーランスのキュレーターとしても従事する。
 1970年代にはシュルレアリスム的傾向の強い作品を制作するが、そこには神秘性を求める姿勢が反映されており、その後の制作の過程をすでに暗示するものである。1973年から1976年にかけては人体を素材としてモンタージュ写真に取り入れた映像表現を試みていたが、1976年ごろより、爬虫類や魚類とコケやツタといった植物によるアレンジをモチーフとした作品に取り組みはじめ、印画技法を駆使したトリックよりは視覚的リアリティーのなかに超現実性や神秘性を追求する傾向がみられるようになった。
 ドイツの植物学者で写真家のカール・ブロッスフェルトKarl Blossfeldt(1865―1932)への憧憬から、1982~1985年「植物誌」Herbariumを発表。ブロッスフェルトのスタイルを踏襲した、クローズ・アップによる克明な形態の記録であるが、あたかも実在する植物のようにみえる被写体は、作家によって捏造(ねつぞう)された創造物であり、それらはプラスチック等の人工物の破片と骨、さまざまな種類の植物の一部と動物の四肢などが、デペイズマンdpaysement(シュルレアリストたちの制作を説明する概念。本来あるべき場所から物やイメージを移し、別の場所に配置すること。また、そこから生じる驚異を意味する)的発想により組み合わせられている。ブロッスフェルトが冷静な記録者の目をもって、植物の、人工物には見られない自然の創造物としての形態に注目しているのに対し、フォンクーベルタの作品は、干からび、いびつな印象を与える対象を克明に撮影しており、朽ちてゆくもの、バランスを失ったものへの執着がアイロニカルな手法によって提示されている。
 架空の動物をドキュメンタリー・タッチで紹介したシリーズ『秘密の動物誌』Faunaは、ペレ・フォルミゲーラPere Formiguera(1952―2013)とともに1989年に開始され、フォンクーベルタの代表作の一つとして挙げられる。同書ではアマイゼンホーフェンなる架空の博物学者を登場させ、博士が発見したとされる動物たちの学名や特徴などのデータ、写真、地図や資料を駆使して、虚と実のあいまいな境界にフォンクーベルタ独自の世界が構築された。その手法は前シリーズ「植物誌」から引き継がれたものである。こうした作品には、心霊写真の熱心なコレクターであり、ケルト地方の妖精伝説や妖精写真にも執着をみせた英国の作家、アーサー・コナン・ドイルの影響をみることができる。フォンクーベルタによるこれら虚偽に満ちた記録映像のシリーズの背景には、写真の信憑性への問いかけがあり、知識や認識の確実性に対する痛烈な皮肉が込められている。[神保京子]
『管啓次郎訳、荒俣宏監修『秘密の動物誌』(1991・筑摩書房) ▽Francisco Jarauta, Michael Sand, Nadine Gez Contranatura; Joan Fontcuberta (2001, Museo de la Universidad de Alicante, Barcelona)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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