イギリスの推理作家。推理小説の開祖であるとともに、推理小説上の名探偵の象徴ともいうべきシャーロック・ホームズの創作者。推理小説というジャンルに初めて手を染めたのはポーであるが、それを確立させたのはドイルである。名探偵とその話の受け手であり助手であるワトソン役、そして不思議な事件を持ち込む依頼人というホームズものの型は、推理小説の正統な一つの典型として、クリスティをはじめとする以後の作家にも受け継がれ、今日もなお続いている。
1859年5月22日エジンバラに生まれ、エジンバラ大学の医科で学ぶ。1882年、ポーツマスで医師を開業し、患者の少ない暇にまかせて、すでに学生時代から書いていた小説の執筆に力を入れるようになり、ガボリオやポーの作品に強い印象を受けて、初めてホームズの登場する長編『緋色(ひいろ)の研究』を1887年に発表した。続いて1890年には長編『四つの署名』を著し、しだいに人気が高まった。翌1891年3月ロンドンで開業したが、やはり患者がこないので、著述に専念することとし、ホームズものの最初の短編『ボヘミアの醜聞』を『ストランド』誌に発表した。その好評にこたえてホームズものの短編を次々に書いたが、20数編ののちにホームズを殺してしまう予定であったという。しかし読者の要望は強く、57編(うち死後発表の遺稿1編)を書き続けた。人によって好みは違うが、これら短編中『赤毛連盟』『まだらの紐(ひも)』『ソア橋事件』などは世評が高い。長編としては『バスカービル家の犬』が有名である。作品のどれにもアイデアとくふうがあり、時代が早かったせいもあってそのトリックも平明なので、日本では児童名作読物としても広く歓迎されている。
これらのほかに、ホームズものでない推理小説、冒険小説、科学小説などかなりの数を発表している。晩年愛息を失ってからは、以前から興味のあった心霊学に凝ったが、同時に愛国者として社会運動や政治運動にも活動し、この業績でサーの称号を与えられた。1930年7月7日、71歳で没。
[梶 龍雄]
『J・D・カー著、大久保康雄訳『ドイル』(1980・早川書房)』▽『ローゼンバーグ著、小林司他訳『シャーロック・ホームズの死と復活――ヨーロッパ文学の中のコナン・ドイル』(1982・河出書房新社)』
イギリスの小説家。コナン・ドイルともよぶ。スコットランドに生まれ,エジンバラ大学で医学を修める。医師として開業したが成功せず,余暇をもてあまして書いた,素人探偵シャーロック・ホームズを主人公とする一連の小説でしだいに人気を得,医者を廃業して小説家を職業とする。シャーロック・ホームズが登場する推理小説ばかりが評判になって,自分が本当に書きたい歴史小説が高く評価されないことに不満を抱き,一時自分の筆でホームズを殺してしまったが,一般読者の強い要望で彼を復活させた。《マイカー・クラーク》(1889),《白衣団》(1891)などの歴史小説は今日では好評である。彼は正義感が強く,有罪の判決を受けた人のために,ホームズもどきの捜査・推理を行い,みごとその無実をつきとめたこともある。またボーア戦争を弁護し,現地調査をして報告書を発表した。晩年は心霊学に熱中し,その方面の著書を多く書いた。
執筆者:小池 滋
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…イギリスの小説家A.C.ドイルが長編小説《緋色の研究》(1887)で初めて登場させた素人探偵で,この物語の語り手ジョン・H.ワトソン医師と共同で,ロンドンのベーカー街の下宿に住み,一般人が持ち込むなぞの事件や,警察が解決できなくて頼みに来る難事件を,明快な推理と機敏な行動力によって解決する。このホームズ探偵とワトソン医師の名コンビは,次の長編小説《四つの署名》(1890)でも登場するが,まだ評判は高まらなかった。…
…人間味豊かな警官の推理作業をとり入れている点も,ポーと違った特徴である。 以上のような土壌の上に,コナン・ドイルの〈シャーロック・ホームズ〉シリーズの花が開くこととなる。この名素人探偵が初登場するのは長編《緋色の研究》(1887)だが,形式的にはポーのデュパンと同じであり,またポーのアイデアをドイルはかなり借用している。…
…このため日本では桶に水を張り,顔をつけて呼吸を止める練習が行われたり,欧米では地下室に目張りして閉じこもる試みがなされたりもした。A.C.ドイルの小説《毒ガス帯》(1913。邦訳《地球最後の日》)などはその小説化である。…
※「ドイル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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