フロンティア軌道理論(読み)フロンティアキドウリロン(その他表記)frontier orbital theory

デジタル大辞泉 「フロンティア軌道理論」の意味・読み・例文・類語

フロンティアきどう‐りろん〔‐キダウ‐〕【フロンティア軌道理論】

フロンティア電子理論

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フロンティア軌道理論」の意味・わかりやすい解説

フロンティア軌道理論
フロンティアきどうりろん
frontier orbital theory

フロンティア電子理論ともいう。化学反応の経路フロンティア軌道と呼ばれる特定の分子軌道によって制御されるとする量子化学の理論。 1952年に福井謙一らによって提唱された。原子原子軌道があるように,分子には分子全体に広がった分子軌道 (MOと略記) がある。分子の最も安定な状態では,多くの場合,エネルギーの低い分子軌道から順に1対の電子によって軌道が占められていく。これらの軌道は被占軌道と呼ばれ,そのなかで最も高い軌道エネルギーのものを最高被占軌道 (HOMO) と呼ぶ。また分子には,被占軌道よりも高いエネルギーをもち,電子の詰っていない空の軌道がある。空軌道のなかで最も低い軌道エネルギーのものを最低空軌道 (LUMO) と呼ぶ。ある分子に他の分子が近づくと,一方の分子の被占軌道と他の分子の空軌道が重なって,被占軌道の電子は2つの分子にはさまれた空間に長くとどまるようになる。この電子分布の変化は非局在化と呼ばれ,関与する被占軌道と空軌道の軌道エネルギーが接近しているほど大きい。フロンティア軌道理論では,ある1組の分子について考えられる反応の様式のなかで,起りやすい様式は電子の非局在化の強いものであると考え,「多くの化学反応は,反応に関与する分子の一方の HOMOと他方の LUMOの重なりが最大になる場所と方向に起る」とする。また1個の電子によって占められる分子軌道があれば,これを半占軌道 (SOMO) といい,「SOMOは HOMOまたは LUMO,あるいは両者に代る働きをする」と考える。 HOMO,LUMO,SOMOはフロンティア軌道と総称され,これらの特定の分子軌道によって化学反応の起りやすさや様式が決る場合をフロンティア制御と呼ぶことがある。また,ときには HOMO以外の被占軌道や LUMO以外の空軌道がフロンティア軌道になることもある。ナフタリンアントラセンのような芳香族化合物の水素ニトロ基などで置き換る求電子的芳香族置換反応の反応位置 (○印) とフロンティア軌道の広がりの尺度となるフロンティア電子密度の間には図のような良好な相関がみられる。 R.B.ウッドワードと R.ホフマンによって発見された軌道対称性の保存則 (→ウッドワード=ホフマン則 ) と同じ結論は,フロンティア軌道理論からも導かれている。

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