化学者。奈良県生まれ。旧制大阪高等学校から京都帝国大学工学部工業化学科に進み、1941年(昭和16)卒業。喜多源逸(きたげんいつ)らに学び、1948年工学博士。同大学燃料化学科講師、助教授を経て、1951年教授となり多数の門下を育てた。1982年4月に退官し同大名誉教授。同年6月から京都工芸繊維大学学長。早くから量子力学の化学への適用に関心をもち、1952年に記念碑的論文と評される「フロンティア電子理論」第一報を、1964年「軌道対称性と選択則」の理論を、そして「反応の理論」を1970年に発表した。前の二つの業績に対し、R・ホフマンとともに1981年ノーベル化学賞を授与され、文化勲章も受章。化学工業の基礎としての「分子工学」提唱の意義は大きい。
[道家達將]
『福井謙一著『化学反応と電子の軌道』(1976・丸善)』▽『福井謙一著『化学と私――ノーベル賞科学者福井謙一』(1982・化学同人)』▽『梅原猛・福井謙一著『哲学の創造――21世紀の新しい人間観を求めて』(1996・PHP研究所)』
1981年度ノーベル化学賞を受賞した化学者。日本人としては6人目のノーベル賞受賞者である。奈良県に生まれ,京都帝国大学工学部工業化学科卒業後,軍務につき,航空添加燃料イソオクタンの製造研究に従事。1951年京都大学教授に就任し,工学部燃料化学教室(現,石油化学教室)で,フロンティア電子理論を根幹とする反応の理論,それに関連する分子科学およびその応用について研究。ノーベル賞受賞の対象となったフロンティア電子理論の第1報は,《A Molecular Orbital Theory of Reactivility in Aromatic Hydrocarbons(芳香族化合物の化学反応性の分子軌道理論)》と題する論文で,1952年にアメリカ物理学会の《化学物理雑誌》に発表され,続いて54年に第2報が発表されている。その概要は次のようなものである。〈共役化合物のπ電子の電子エネルギー,その電子分布を分子軌道法に基づいて計算し,電子のつまっている最もエネルギーの高い分子軌道(HOMO)と,エネルギー最低の空軌道(LUMO)を定める。これらの軌道は反応に際して特別の役割を果たすもので,フロンティア軌道と名づける。そして,フロンティア軌道にある電子(フロンティア電子)の電子密度の大きなところに反応が起こる〉。当時の化学反応の理論では,分子のすべての電子の寄与を考えるのが主流であり,特定の電子のみを考えるこの理論は特異的であったが,R.ホフマンによるウッドワード=ホフマン則によってその評価が定まったといえる。その応用範囲は広く,分子設計,反応設計,触媒設計などについて有力な手がかりを与えるものである。
執筆者:米澤 貞次郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
昭和・平成期の化学者 京都大学名誉教授;京都工芸繊維大学名誉教授。
出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報
日本の量子化学者.奈良県に生まれ,旧制今宮中学,大阪高等学校,京都帝国大学工学部工業化学科を経て,同大学大学院入学,1948年工学博士(京都大学).1943年京都帝国大学工学部燃料化学科の講師,1945年同助教授,1951年同教授を経て,1982年京都工芸繊維大学学長,1988年(財)基礎化学研究所(現在は京都大学・福井謙一記念研究センター)所長となる(~死去).関西の化学反応研究の伝統を継承し,1952年フロンティア軌道理論,1964年HOMO-LUMO相互作用の理論,1970年化学反応の経路解析など,純理論的研究を行い,1981年R. Hoffmann(ホフマン)とともにノーベル化学賞を受賞.同年には文化勲章を受章.晩年に分子工学を提唱した.日本化学会会長,学術審議会会長などを歴任.日本学士院会員,全米科学アカデミー外国人客員会員.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
1918.10.4~98.1.9
昭和期の化学者。奈良県出身。京大卒。京都大学教授・京都工芸繊維大学学長を歴任。芳香族炭化水素の反応が古典的な有機電子論では説明できないことに着目し,化学反応の起り方を電子の軌道を使って説明したフロンティア軌道理論で世界的に知られ,1981年(昭和56)ノーベル化学賞を受賞。学士院賞・文化勲章をうける。ヨーロッパとアメリカのアカデミー会員。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報
…有機化学反応の予測は量子化学計算の方向からも試みられた。ヒュッケル分子軌道法に始まって,拡張ヒュッケル法や福井謙一(1918‐ )のフロンティア軌道理論が提出され利用されるようになった。1965年ウッドワードR.B.Woodward(1917‐79)とホフマンRoald Hoffman(1937‐ )はπ電子系での協奏的熱反応が起こるか否かは反応点においてフロンティア軌道の係数の符号が合致するか否かで決まるというウッドワード=ホフマン則(1965)を提出した。…
…ヒュッケル分子軌道法に代表される理論的方法論は,有機化合物の物性や構造の理解に役立つことが認められ,しだいに利用されていった。福井謙一のフロンティア軌道理論(1952),ウッドワードRobert Burns Woodward(1917‐79)とホフマンRoald Hoffman(1937‐ )の軌道対称則(1965)などは,有機合成にも応用できる実際的な理論として大いに利用された。 20世紀の最後の四半世紀において,有機化学は反応の立体制御を実現しながら進める有機合成化学と,生体の複雑な機能の一部を実験室で再現しようという生体模倣有機化学biomimetic organic chemistryの2分野に著しい発展がみられている。…
※「福井謙一」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、和歌山県串本町の民間発射場「スペースポート紀伊」から打ち上げる。同社は契約から打ち上げまでの期間で世界最短を目指すとし、将来的には...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新