ブレーキ装置(読み)ぶれーきそうち(英語表記)brake

翻訳|brake

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブレーキ装置」の意味・わかりやすい解説

ブレーキ装置
ぶれーきそうち
brake

機械の全体や一部分直線運動または回転運動を減速して速さを調節したり、運動を停止させるための力(ブレーキ力)を、適当な大きさで発生させる装置。単にブレーキ、または制動装置ともいう。運動エネルギーを熱や電気エネルギーに変換して機械の外へ放出する仕組みになっている。初めは、てこの原理などを利用して人力を大きくし、回転軸にブロックや革の帯を押し付けて制動していたが、機械が大型・高速化するにしたがってブレーキ力が不足するようになり、自動車のブレーキシリンダーなどのように油圧や機械で人間の力を増幅する倍力装置を使用したり、鉄道車両の空気ブレーキなどのように空気圧や油圧によってブレーキ力を得て、人間は単にそれを制御するだけの装置が使われるようになった。さらにブレーキの効きをよくし、車輪などの滑走を防止するアンチスキッド装置も開発されている。

[吉田正武]

種類

運動エネルギーの変換方式によって、原動機式ブレーキ、流体式ブレーキ、電気式ブレーキ、機械式(摩擦)ブレーキに分けられる。

[吉田正武]

原動機式ブレーキ

内燃機関などをブレーキとして用いるもので、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンを空気圧縮機として作動させるエンジンブレーキ、電動機を発電機として作動させる電気ブレーキがある。またジェットエンジンの逆噴射もこれに入る。減速には有効だが停止はできない。

[吉田正武]

流体式ブレーキ

流体内を物体が運動するときの流体抵抗を利用する方式。航空機のエアブレーキ(機体から抵抗板を出す)や後尾から出す抵抗用のパラシュートドラッグシュート)がある。回転するものでは、容器内に水または油を入れ、中で羽根車を回転させるハイドロリックブレーキがある。いずれも減速には有効であるが、運動を確実に停止できない。

[吉田正武]

電気式ブレーキ

これには次のようなものがある。〔1〕電動機を発電機として逆用し、運動エネルギーを電気に変え、発生した電気を抵抗器で熱にして放出する発電ブレーキ。〔2〕発生した電気を送電線に戻す電力回生ブレーキ。〔3〕車軸につけた円板の近くの電磁石に通電し、円板に渦(うず)電流を生じさせ熱として放出する渦電流ディスクブレーキ。〔4〕レールから一定間隔を保った電磁石に通電し、レールに渦電流を生じさせ熱として放出させる渦電流式レールブレーキ(電磁吸着ブレーキ)。以上は主として鉄道車両用として用いられている。そのほか、荷物を運搬するコンベヤーに渦電流を発生させて速度を低く抑える電気ブレーキが使用されている。20世紀末ごろから自動車などで減速時に得た電気を蓄電池などに蓄え、走行時に再利用するエネルギー回生システム用として用いられている。

[吉田正武]

機械式ブレーキ(摩擦ブレーキ)

運動エネルギーを摩擦で熱エネルギーに変換し放出するもので、いろいろな機械に広く利用されている。これは減速だけでなく完全に停止することができるが、熱の放出が不完全だと摩擦片の摩擦係数が低くなるので、熱の放出には十分注意を払う必要がある。機械式ブレーキの構造は基本的にはブロックブレーキ、ディスクブレーキ、バンドブレーキ(帯ブレーキ)、ドラムブレーキ、逆転を防止する自動ブレーキに分けられる。また、使用される機械によって、自動車用、鉄道車両用、航空機用、産業機械用、工作機械用がある。

(1)ブロックブレーキ 1個の鉄か鋼のブレーキ輪の外周に1個か2個の鋳鉄か木製のブロックを押し付けるもので、ブロックの数で単ブロックブレーキと複ブロックブレーキに分けられる。単ブロックブレーキは1個のブロックをてこでブレーキ輪に押し付ける。一方向に力を加えるので、あまり大きな押し付け力は加えられない。また構造上この形式は回転方向によって自動ブレーキになり、ブロックが接触していれば逆転を防止する。複ブロックブレーキは1個のブレーキ輪に2個のブロックを対称的に設けて押し付け力を平衡させ、一つのてこで2個のブロックを連動させて力を加える。また大型の巻上げ機やクレーンでは、ばねやおもりでブレーキ力を加え、クレーンを動かすときは電磁石でてこを逆に動かしブレーキを緩める方式の電磁ブレーキが使用される。ブロックは鉄、木材、接触面に摩擦材(ライニング)を張り付けたもので、ライニングには摩耗が少なくブレーキ輪よりは弱い材料を用いる。ブロックが温度上昇によって変形したり摩擦力が小さくならないように、ブロックとブレーキ輪の放熱をよくする必要がある。

(2)ディスクブレーキ 回転するブレーキ輪に軸方の同軸上に置いた固定円板を押し付けてブレーキ力を加える。円板が一枚のものから数枚のもの、円板のかわりに円錐(えんすい)を使用するものがある。また自動車、鉄道車両、航空機のような高速で回転する車輪では、ブレーキ円板が全周のものであると摩擦による発熱が大きくなるので、扇型の面積の小さいライニングにし、これをブレーキ輪の片側か両側から押し付ける。冷却が良好で安定したブレーキ力が得られる。しかし、大きなブレーキ力を必要とするときにはライニングの面積を大きくする必要があり、冷却が悪くなるので、水で冷却するなどのくふうが必要になる。また自己増力効果がないので、一般には倍力装置を用いる。

(3)バンドブレーキ ブレーキ輪の周りに鋼または革の帯を巻き付けたもので、てこで帯を引っ張り、ブレーキ輪と接触させてブレーキ力を得る。このブレーキは回転方向によって、接触していれば自動的にブレーキがかかる自動ブレーキになる。

(4)ドラムブレーキ 車輪等の回転輪にドラムを取り付け、内側にライニングを張ったブレーキ片(ブレーキシューという)を対称に置き、内からドラムの内側に押し付けるもので、おもに自動車用として広く用いられている。摩擦面がドラムに保護されて異物が入りにくいが、ライニングの温度上昇が大きく激しい制動条件では熱のため効きが悪くなるフェード現象があることと、中に入った水などの異物を排除しにくい欠点がある。ドラム内のブレーキシューの配置により、リーディングシュー型、トレーリングシュー型、フローティングシュー型があり、これを組み合わせて用いる。リーディングシュー型は、接触するとブレーキ力が自動的に増す自己増力効果がある。トレーリングシュー型は逆に、接触するとブレーキ力を弱くする効果があり、大きな力をシューに加える必要があるが、自己増力効果でブレーキ力が急激に増加して危険を招く心配がない。フローティングシュー型にはこのような摩擦力の影響はない。

(5)自動ブレーキ 巻上げ機やクレーンなどで巻上げ用の電動機を停止したときに荷が降下しないように止めたり、クレーンなどで荷を降ろすときに降下速度が大きくならないように抑えるためのブレーキ。爪(つめ)と爪車、ウォーム歯車、ねじ、コイルばねの組合せや、カムを用いた一種のドラムブレーキ、遠心力を利用した一種のドラムブレーキなどがある。爪と爪車を用いるものは鋼索荷重ブレーキといわれ、巻上げ機のロープの一端はブレーキ用のブロックを押すてこに結ばれ、他の一端は巻上げドラムに結ばれている。巻上げのときは、巻上げドラムと同軸にある爪車はブレーキ輪の爪の上を滑り、逆向きの回転は爪によって止められる。巻下げのときはブロックの摩擦に勝つ力でブレーキ輪を回転させる。ウォームブレーキは、ウォーム軸に爪と爪車を設け、ウォーム軸で押されると爪車に接触する円錐ブレーキを設けたもので、巻上げのときには円錐ブレーキが作用し、つめ車は爪の上を滑る。巻下げのときは円錐ブレーキの摩擦力に勝る力で巻上げドラムを回転させる。巻上げ力がなければ、爪で荷の降下が止まる。ねじブレーキは、ウォームのかわりにねじを、円錐ブレーキのかわりにディスクブレーキを用いた同じ原理のブレーキである。コイルブレーキは、鋼索荷重ブレーキのブロックブレーキを、コイルばねを巻き戻すときに爪車のついた外筒を中から押す一種のドラムブレーキに置き換えたもので、原理は同じである。カムブレーキは、コイルブレーキのコイルのかわりにカムを用いたもので、原理は同じである。遠心力ブレーキは、手巻きの小型ウィンチなどに用いられる。巻上げの緩やかな速度では遠心力の効果が作用せずに、ばねで押さえられているおもりが、巻下げで降下速度が大きくなると外に動きドラムブレーキとして作用する。

[吉田正武]

アンチスキッド装置

自動車、航空機などでブレーキ力が大きすぎて本体が停止する前に車輪が停止すると、自動車や航空機が車輪の向きとは無関係な方向に滑走したいへん危険になる。アンチスキッド装置は、車体または機体の減速度と車輪の回転の減速度の差を検出し、車輪の減速度が車体より大きくなると油圧または空気圧を下げてブレーキ力を弱くして車輪の滑走を防止し、最大限の減速度を滑りやすい路面でも確保するもので、自己増力効果のないディスクブレーキと組み合わせて用いられることが多い。また走行時の姿勢を安定させるために、各車輪を独立に制動することも行われている。

[吉田正武]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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