ジェットエンジン(読み)じぇっとえんじん(英語表記)jet engine

翻訳|jet engine

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジェットエンジン」の意味・わかりやすい解説

ジェットエンジン
じぇっとえんじん
jet engine

機関内部で加圧・加熱された流体をジェット(噴流)としてノズルから噴出させ、その反動で推進力を得る機関。ロケットエンジン、イオンエンジン広義ジェットエンジンに含まれるが、普通は空気を吸い込み燃料を燃焼させて高温ガスをつくる熱機関をいう。したがってジェットエンジンは大気圏内でしか使用できない。

[吉田正武]

歴史

現在のような空気を圧縮してその中で燃料を燃焼させるジェットエンジンは効率の高い圧縮機とタービンができてから実現し、ガスタービンの発達とともに実用になった。初めは戦闘機をより高速にする目的で1930年代からイギリス、ドイツなどで実用化の研究が始まり、イギリスのフランク・ホイットルは1937年に遠心型の圧縮機を用いたジェットエンジンを試作し、1941年には飛行に成功した。ドイツでも1939年には、ハンス・フォン・オハインHans von Ohain(1911―1998)が設計した遠心型圧縮機をもつジェットエンジンによる飛行に成功し、第二次世界大戦後のジェット機時代につながった。

[吉田正武]

構造

空気取入口、圧縮機、燃焼器、タービン、ジェットノズル、アフターバーナー、燃料供給装置で構成される。空気取入口は空気の流速を遅くし、圧力を高めて圧縮機に導くところである。超音速で飛行する場合は、空気取入口の中央にコーン状の突起をつけるなどして、大きな衝撃波を2、3段に分けて効率、圧力を高めるくふうがなされている。圧縮機は軸方向に回転羽根車と静止羽根の組を多数並べた軸流型と、半径方向に空気を流す遠心型があり、吸入した空気をディーゼルエンジンと同程度まで圧縮するために多くの段階を経て圧縮する。超音速飛行の場合には、超音速流を急速に音速以下の流れにすれば圧力が上昇するので、圧縮機をもたないジェットエンジン(ラムジェットエンジンという)もある。燃焼器は普通は管形のものを8、9個程度用いる。ドーナツ状(環状)の燃焼室も使用される。燃料は燃焼室の上流(一次燃焼室)に噴射され燃焼する。その後、二次空気を入れ燃焼ガス温度を低くしてタービンに導く。タービンは圧縮機を駆動するためのもので、軸流型、遠心型の2種があり、圧縮機よりも段数は少ない。ラムジェットは圧縮機がないのでタービンもない。ジェットノズルは、ジェットの流速を飛行速度に最適なように制御する部分で、可変面積のノズルが多く使われる。ジェットエンジンではノズルを出たジェット噴流がその高度の大気圧に等しいのが理想的で、ジェットが大気圧になるように面積を調節する。また、離陸距離の短縮や機動性向上のために噴出方向を変えられる可変ノズルも使用されている。アフターバーナーは、タービン通過後の燃焼ガスに燃料を加えてふたたび高温にする装置で、推力を増加でき、大推力を短時間必要とするときに用いられる。燃料供給系はポンプと噴射ノズルからなるが、これは他の調節部分と連動し、最適なエンジン運転状態を保つように制御される。

[吉田正武]

分類

ジェットエンジンは、構造および機能上から次の6種類に分類される。

(1)ターボジェットエンジンturbo-jet engine もっとも普通に使用されてきたエンジン。吸入した空気を圧縮機で圧縮し、燃焼室で燃料を噴射し燃焼させ、タービンを駆動したあと、ジェットとしてノズルから噴出する。アフターバーナーをもつものも多い。ジェットエンジンの主力であったが、大型飛行機用として燃料消費量の少ない大推力エンジンの要求が高まるとともに、中型、小型に限定されてきている。

(2)ターボプロップエンジンturbo-prop engine ターボジェットにさらにプロペラ駆動用のタービンをつけ、推力の大部分をプロペラで発生するエンジン。ジェットエンジンというよりも、ガスタービンの一種と考えられる。大出力往復動機関では重くなるので、大型、中型のプロペラ機に多く使用されている。

(3)ターボファンジェットエンジンturbo-fan-jet engine ターボジェットのおもに圧縮機の前に一組以上の羽根車と整流翼をもつダクテッドファンducted fanをつけ、吸入した空気の一部分をターボジェットに入れ、ターボジェット出口で残りの空気を混合するか、そのままターボジェットのノズルとは別に噴出するエンジン。ファン駆動のためタービンを通過したガス温度が低下し、ジェットノズル出口で大気温度に近くなって効率があがるほか、ファンにより大きな推力が得られるので全体の熱効率が高くなる。大推力、低燃料消費量の特性から、ジェットエンジンの主力となっている。これはターボファンエンジン、バイパスジェットともいわれる。

(4)ラムジェットエンジンram-jet engine 飛行速度が高速になると、空気取入口からの流路形状で流速を遅くするだけで圧力と温度が十分に上昇し、圧縮機がなくても燃料を燃焼させられる温度になる。ラムジェットはこの原理による。圧縮機もタービンも不要で超音速機に適したエンジンである。しかし低速ではエンジンとして働かないので、他のエンジンによって加速してもらう必要がある。このため内部にターボジェットをもつものがある。高速でのみ有用なエンジンなので、あまり使用されていない。

(5)パルスジェットエンジンpulse-jet engine 前端に自動弁をもち、エンジン内部の圧力が低くなると空気を吸入する。燃焼させるとジェットがノズルから噴出し、エンジン内の圧力が低くなる。外から空気が自動弁を通って吸入され、流速が遅くなって圧力、温度が上昇する。燃料を噴射するとさらに圧力が上昇して自動弁が閉じ、ジェットがノズルから噴出する。したがって間欠燃焼機関であるが構造が簡単で、兵器、模型に用いられた。しかし推力が小さいので、一般には用いられていない。

(6)リフトエンジンlift engine VTOL(ブイトール)機(垂直離着陸機)、STOL(エストール)機(短滑走離着陸機)用で、離陸時、一時的に垂直方向の推進力を得るためのジェットエンジン。重量に対する推力の比を大きくすることだけが特徴のターボジェットである。なお、主エンジンのノズルの向きを下方にも向けて垂直方向の推力を生む場合もある。

[吉田正武]

燃料

ジェットエンジンに用いられる燃料はオクタン価、セタン価はあまり問題ではなく、蒸発損失の少ないこと、発熱量の大きいことなどが主たる要求事項である。現在は灯油にガソリンを混合したJP‐4が標準的に用いられている。

[吉田正武]

性能

ジェットエンジンは定期的に分解整備を行うので整備の容易なことが必要条件で、信頼性はこの定期整備でも確保される。このほかに、エンジンの重量当りの推力が大きいこと、前面面積当りの推力が大きいこと、燃料消費の少ないこと、推力制御の容易なことなどが要求され、とくに戦闘機などでは比推力を大きくするためにアフターバーナーを用いる。また、性能を左右するものに空気取入口があり、空気吸入の容易なように空気流速、圧力などを調整する重要な役割を担っている。最近の大型ジェットエンジンは、ファンだけを通す空気が燃焼器に入る空気の3倍程度のバイパス比をもつ大推力、低燃料消費量、大口径のターボファンジェットで、飛行機の胴体外に装着される場合には、前面面積の小ささの重要度は小さくなっている。一方、小型小推力のジェットエンジンも着実に開発され、1人乗りの小型機にも用いられるようになってきた。

[吉田正武]

ジェットエンジンの今後

構造的にはターボファンジェットが広い範囲で使用され、小型機にも使われるようになると思われる。またジェットエンジンはガスタービンと同様にタービン入口の燃焼ガス温度の高いほど熱効率がよくなるので、金属以外の耐熱性の高い材料が使用され、また圧縮機でも金属以外の軽量材料が実用化されるだろう。燃料としてJP‐4などの石油燃料以外に水素を燃料として使用することが予想されており、水素燃料の貯蔵、運搬方法が研究されている。

[吉田正武]

『富塚清著『内燃機関の歴史』新改訂版(1984・三栄書房)』『John Robert DayEngines ; The Search for Power(1980, The Hamlyn Publishing Group Ltd.)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジェットエンジン」の意味・わかりやすい解説

ジェットエンジン
jet engine

大量,高速の燃焼ガス (ジェット) を尾筒から噴出し,その反動で発生する推力を利用する機関。大別して,外部から空気を取り入れる方式と酸素を内蔵する方式とに分けられ,通常,前者をジェットエンジン,後者をロケットエンジンと呼んで区別する。ジェットエンジンは構造上,ガスタービンを備えたタービンエンジン (ターボジェット・エンジンターボファン・エンジンターボプロップ・エンジンなど) と,ガスタービンを欠いたパルスジェットラムジェットなどに分類される。ガスタービン型は圧縮機,燃焼室,タービン,排気口などからなり,外部から取り入れた空気を圧縮し,燃料を噴射,燃焼させて発生させた大量のガスを排気口から噴出する。パルスジェット,ラムジェットはいずれもガスタービンを備えず,空気を取り入れ,燃焼させてジェット推進を行なう。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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