ノルウェーの劇作家イプセンの四幕戯曲。1890年作。主人公ヘッダは故ガブラー将軍のひとり娘で、美貌(びぼう)で勝気な女性。平凡な大学教授テスマンと結婚して退屈な日々を送っているところへ、かつて夫の学問上の好敵手で自分に思いを寄せていた天才肌(はだ)のレールボルグが放蕩(ほうとう)と酒で身を持ち崩していたのに、彼女の頤使(いし)に甘んじていた旧友の援助で立ち直り、すばらしい著述を完成して現れ、夫テスマンを蹴(け)落としそうになる。しかし彼はその原稿を道で落として絶望に陥る。原稿はヘッダの手に入るが、彼女は彼にピストルを与えて帰し、原稿は焼き捨てる。やがて彼の死が伝えられると、彼女もピストル自殺をする。美貌と才気に恵まれながら、我(が)の強い解放された女性の、自他をともに破滅させる姿を描いた作者中期の名作。日本では1912年(大正1)、近代劇協会によって初演されて以来、再々上演されている。
[山室 静]
『楠山正雄訳『ヘッダ・ガブラー』(角川文庫)』
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…次の《野鴨》(1884)から社会問題が薄れて心理劇の傾向をみせるとされるが,近代人の自由喪失を見つめる目は一貫している。イプセンのリアリズムは,男性中心の小市民的生活に窒息させられる新しい女を描く《ヘッダ・ガブラー》(1890)で頂点に達したあと,91年に故国に戻ってから書いた《棟梁ソルネス》(1892)以下の晩年の作品では,シンボリズムの色合いを帯びてくる。特に最後作《私たち死んだものが目覚めたら》(1899)は不条理劇的雰囲気をもつ芸術家の自己審判の劇で,若きジョイスが熱烈な批評を書いたことでも有名である。…
※「ヘッダガブラー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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