翻訳|Mother Goose
イギリスの伝承童謡集の俗称。イギリスでは〈nursery rhymes(子ども部屋の歌)〉と呼ぶのが普通。この俗称の起源は,1765年ころニューベリーJohn Newberyが出版した童謡集《がちょうおばさんの歌Mother Goose's Melody》にあるといわれる(この書名には1697年に出版されたフランスのC.ペローの童謡集の副題《がちょうおばさんの物語Contes de ma mère l'Oye》の影響があるだろう)。18世紀初頭のボストンで孫たちに童謡を教えたエリザベス・グース夫人の名まえに由来するというアメリカの俗説もある。日本では,北原白秋(《まざあ・ぐうす》1921)から谷川俊太郎(1975)に至る翻訳によって,〈マザーグース〉の呼称が定着した。なお〈がちょうおばさん〉自身は童謡2編に登場するだけである。
文献的に最古の童謡は16世紀にさかのぼるが,現存の歌の多くは17世紀から18世紀にかけて流行していたものと思われる。〈ロンドン橋が落っこちる〉〈だれがコマドリを殺したの〉〈10人の黒人少年〉〈ジャックの建てた家〉など,世界的に有名な童謡を含めて,今日800余編が収集されている。〈ハンプティ・ダンプティ〉のように,欧州各国に共通して見いだされる童謡もある。
遊び歌,数え歌,早口ことば,アルファベット歌,なぞ,短い物語など,さまざまな形の中に,ノンセンス,グロテスク,風刺,宇宙的感覚が満ちあふれていて,イギリス人独特のユーモアは幼年時代以来親しんでいるこれらの歌に培われるところが大きい。英語圏文化をよく理解するには,童謡の知識が不可欠といわれるゆえんである。日本のわらべうたに比べて,概して乾いた笑いが特徴的である。19世紀のE.リア(《ノンセンスの絵本》)やL.キャロル(《不思議の国のアリス》),20世紀のW.B.イェーツ,T.S.エリオット,J.ジョイスなどの作品には,童謡の文学的応用が見られる。アガサ・クリスティ(《そして誰もいなくなった》)やバン・ダイン(《僧正殺人事件》)などの推理小説でも,童謡が重要な役割を果たしている。
執筆者:高橋 康也
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…サンスクリットの聖典《リグ・ベーダ》(最終版は前1000年ころ)には,なぞの形式による神の賛歌が含まれている。〈マザーグース〉の名で知られるイギリス伝承童謡中の,〈ハンプティ・ダンプティは塀に座っていた/どすんと地面に落っこちた/王様の軍勢が総がかりでも彼を元には戻せなかった〉という歌も,ハンプティ・ダンプティ=卵という解答を秘めたなぞなぞである。〈宇宙卵〉の墜落と歴史の始まりという宇宙開闢(かいびやく)神話の残響がここに聞きとれる。…
…風刺やパロディが社会批判の役割をもった攻撃性の強い笑いだとすれば,こちらは比喩や言葉遊びに基づいて〈おかしみ〉を楽しむ要素がより強い。その種の愉快な伝承歌謡〈マザーグース〉をもつイギリスは,E.リアの《ノンセンスの絵本》(1846)やL.キャロルの《不思議の国のアリス》(1865。アリス物語)といった代表作を生み出した。…
…一般的には,英語でgame songs,game‐rhymesまたはsinging gamesと呼ばれるものがそれにあたるが,つねに特定の遊戯が伴うとは限らず,もっぱら語呂のよいとなえ歌nursery rhymesも,むろんわらべうたの一種とみなされる。《マザーグース》はその典型的なもので,〈ジャックとジル〉や〈ロンドン橋が落っこちる〉などはイギリスの代表的なわらべうたということができる。中国語では〈児歌〉または〈童謡〉と呼ばれるが,やはり幼児が言葉や数を習得する過程で覚える数え歌や唱え歌が多い。…
※「マザーグース」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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