改訂新版 世界大百科事典 「マトウダイ」の意味・わかりやすい解説
マトウダイ (的鯛)
Zeus japonicus
マトウダイ目マトウダイ科の海産魚。マトダイともいう。平たく長卵形をした体の側面ほぼ中央に淡色で縁どられた大黒斑があり,的を思わせるのでこの名がある。地方によりマトハゲ,クルマダイ,モンダイ,ツキノワなどとも呼ばれる。体色は暗灰色,表面は細かいうろこでおおわれる。頭が大きく眼は上方につく。口も大きくて斜め上方に開き,上あごを前方に突き出すことができる。背びれ前部の棘(きよく)間にある皮膜が長く糸状に伸長し,成魚では尾に達する。背びれ軟条部の基底,あごから後方の腹縁およびしりびれ基底に沿ってとげのある骨板が並ぶ。青森県以南,朝鮮半島,オーストラリア,南アフリカに分布し,全長50cmに達する。日本では水深50~100m,泥質の海底から機船底引網によって漁獲されるが,量は多くない。産卵期は4~6月で浮性卵を産む。幼魚は円形で体側に多数の不規則な縦走暗色帯があり,沿岸の浅所で育ち,内湾にも入る。美味な魚で刺身,煮つけなどにされるほか,かまぼこの原料としても用いられる。ヨーロッパからは近縁種Z.faber(英名John Dory)が知られる。水族館での観察によると,本種は生きた小魚を好み,死魚は食べない。背びれとしりびれの軟条だけを動かし,尾びれを舵にして静かに獲物に近づき,口をすばやく突き出してのみ込んでしまう。その際,背びれの棘が立ち,体色も濃淡さまざまに,かつ,急速に変化する。なお,体側の黒斑は,使徒ペテロがこの魚の口から貨幣をとり出すときにつけた指の跡だとする伝説がある。
執筆者:羽生 功
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報