日本大百科全書(ニッポニカ) 「東シナ海」の意味・わかりやすい解説
東シナ海
ひがししなかい
East China Sea
中国の東方にある太平洋の縁海。中国では東海とよぶ。北は長江(ちょうこう/チャンチヤン)(揚子江(ようすこう/ヤンツーチヤン))の河口と済州島(さいしゅうとう/チェジュド)南西角を結ぶ線、南は広東(カントン)省の南澳島(なんおうとう/ナンアオタオ)と台湾の鵞鑾鼻(がらんび/オーロワンピー)を結ぶ線、東は九州から沖縄を経て台湾に至る島弧、西は中国本土に囲まれた水域である。面積124万9000平方キロメートル。台湾と日本の五島(ごとう)列島を結んだ線より北西は基本的には大陸棚に属し、総面積の3分の2を占める。この線より南東は大陸斜面である。平均深度188メートル、最大深度2719メートル。深度100メートル以浅の水域は海底の大部分が平坦(へいたん)で砂泥質からなり、底引網漁業に適している。北緯30度以北32度まで、東経124度以東126度までの間の海底は砂混じりの泥質で、多種類の魚の越冬する場所である。中国大陸の海岸線の長さは4200キロメートルに達し、海岸線の出入りが多く良港に富み、また中国五大海区のうちではもっとも島が多い。台湾島および中国の沿海島嶼(とうしょ)の約60%がここに分布する。これらの島々の周辺は良好な漁場をなし、ことに舟山群島(しゅうざんぐんとう/チョウシャンチュンタオ)周辺の海域は海産魚類の宝庫といわれる。中国の代表的海洋経済魚とされるタチウオ、フウセイ(大黄魚)、キグチ(小黄魚)、イカの最大の産地で、カニの漁獲量も多い。また日本沿岸も五島列島から沖縄にかけて好漁場がみられ、日中漁業協定に基づく遠洋操業が実施されている。また本海南部の大陸棚の部分には石油資源の埋蔵が豊富と予測され、上海(シャンハイ)東方などで海底油田の掘削が始まっている。
[河野通博]
海況
海面水温は、夏季には25~28℃とほぼ一様であるが、冬季には黒潮が流れている南西諸島北側の20℃以上に対して、北部では10℃以下となる。また海面の塩分は、南東部では34.0psu(psuはpractical salinity unitの略、実用塩分単位)以上であるが、中部以北では31~32psu、とりわけ長江河口では雨期には塩分は20psu以下となる。
おもな海流は、台湾と石垣島の間から流入し南西諸島北側を経て吐噶喇(とから)海峡に抜ける黒潮(流速2ノット前後)およびこの分流で九州西を北上し、やがては対馬(つしま)暖流に至るものと、中国大陸側を南下する沿岸流とがある。ただし、対馬暖流の起源については、九州西を北上する黒潮の分流であるとする見解とは別に、台湾海峡から対馬海峡に続く一連の、黒潮とは別の海流系があるという考えがある。また海流に加えて浅海部では潮流も卓越しており、中央部で1~2ノット、沿岸部では2~3ノットに達している。さらに台湾海峡では潮差も大きく、一部では7メートル以上にも及び、大潮時には杭州(こうしゅう/ハンチョウ)湾銭塘江(せんとうこう/チエンタンチヤン)河口では潮汐(ちょうせき)波が津波のように押し寄せる「ボア現象」がみられる。
[長坂昂一・石川孝一]
『岡村収監修、山田梅芳ほか編『東シナ海・黄海のさかな』(1986・水産庁西海区水産研究所)』▽『下野敏見著『東シナ海文化圏の民俗――地域研究から比較民俗学へ』(1989・未来社)』▽『網野善彦・大林太良・谷川健一・宮田登・森浩一編『海と列島文化4 東シナ海と西海文化』(1992・小学館)』▽『網野善彦ほか監修『東シナ海と西北九州』(2000・日本図書センター)』▽『堀川博史ほか編『東シナ海・黄海主要資源の生物・生態特性――日中間の知見の比較』(2001・水産庁西海区水産研究所)』