アメリカの哲学者。カリフォルニア大学教授。ベルリン生まれのユダヤ人。第一次世界大戦直後、社会民主党員としてドイツ革命に参加。革命敗北後、社民党を離れ、フッサール、ハイデッガーに学ぶ。1932年、右傾化する師ハイデッガーと離反、フランクフルト学派に加入。ナチス政権成立後、アメリカに亡命し、以後、アメリカに在住した。1960年代、アメリカの市民運動家、学生運動家たちに再発見され、彼らの精神的主柱となる。1979年、ミュンヘンで没。彼は、マルクス主義とフロイト左派の立場の折衷を目ざした。現代の管理社会に対する彼の鋭い批判はあまりにも有名である。代表作として『理性と革命』(1941)、『エロス的文明』(1955)、『ソビエト・マルクス主義』(1958)、『一次元的人間』(1964)などがある。
[清水多吉 2015年10月20日]
『南博訳『エロス的文明』(1958・紀伊國屋書店)』▽『桝田啓三郎他訳『理性と革命』(1961・岩波書店)』▽『マルクーゼ著、良知力・池田優三訳『初期マルクス研究――『経済学=哲学手稿』における疎外論』(1961/改訳版・1968/新装版・2000・未来社)』▽『マルクーゼ著、清水多吉訳『ユートピアの終焉』(1968・合同出版)』▽『片岡啓治訳『ソビエト・マルクス主義』(1969・サイマル出版会)』▽『生松敬三他訳『一次元的人間』(1974/新装版・1980・河出書房新社)』
アメリカの哲学者。ユダヤ系ドイツ人としてベルリンに生まれ,ベルリン,フライブルクの両大学で哲学を学んだ。フッサールとハイデッガーの影響とマルクス主義を結合した独自の視角からのヘーゲル研究を行うとともに,1932年批判的マルクス主義研究の中心であったホルクハイマーらのフランクフルト社会研究所(フランクフルト学派)に参加した。ナチスの政権奪取とともにアメリカに亡命(1940年帰化),反ファシズムの立場から研究活動を続け,やがて《理性と革命》(1941)や《エロスと文明》(1955)を書いて,実証主義的社会理論を批判する〈否定の哲学〉を説き,また新フロイト主義的社会理論を批判する独自の文明論を展開した。そして,ソビエト・マルクス主義を批判しつつ,高度工業化がもたらした現代管理社会の人間疎外に対して,現存体制の全面的拒否を説き(《一次元的人間》1964),60年代後半の世界的規模での学生の総反乱(新左翼運動)に大きな思想的影響を与えた。
執筆者:荒川 幾男
ドイツの文筆家。ベルリンでユダヤ人実業家の子に生まれ,ベルリンとフライブルクの大学で哲学を学んだ。その後ワイマール期ドイツで,ハインツ・ラーベHeinz Raabeというペン・ネームでジャーナリストとして評論や劇評に健筆をふるって注目されたが,ナチスの台頭とともにフランス,さらにアメリカに亡命,1945年以降南カリフォルニア大学の哲学・ドイツ文学教授となった。第2次世界大戦後は西ドイツの新聞に寄稿して,評論家として活躍した。彼は生涯を通じて〈異論者〉の立場から時代と文化を論評したが,その関心はつねにドイツに向けられ,晩年の62年にドイツに帰国して死んだ。多くの伝記を含む著作の中で自伝の《わが20世紀》(1960)は特に有名。
執筆者:荒川 幾男
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…それは,社会・文化事象の理解に心理学的視点を導入するさまざまな試みを促進し,大衆社会論,大衆文化批判などを生みつつ,社会科学を革新するうえで大きな役割を果たした。 第3は,M.ホルクハイマー,T.アドルノ,H.マルクーゼら,のちにフランクフルト学派とよばれる人々によるフロイト主義の批判的摂取である。彼らは20年代のワイマール・ドイツで,フランクフルトの社会研究所に拠って,マルクス主義に基づく独自な批判的理論を形成したが,精神分析に深い関心を抱いていた。…
…1930年代以降,ドイツのフランクフルトの社会研究所,その機関誌《社会研究Zeitschrift für Sozialforschung》によって活躍した一群の思想家たちの総称。M.ホルクハイマー,T.W.アドルノ,W.ベンヤミン,H.マルクーゼ,のちに袂(たもと)を分かったE.フロム,ノイマンFranz Leopold Neumann(1900‐54)たちと,戦後再建された同研究所から輩出したJ.ハーバーマス,シュミットAlfred Schmidt(1931‐ )らの若い世代が含まれる。彼らはいわゆる〈西欧的マルクス主義〉の影響の下に,正統派の教条主義に反対しつつ,批判的左翼の立場に立って,マルクスをS.フロイトやアメリカ社会学等と結合させ,現代の経験に即した独自の〈批判理論〉を展開した。…
※「マルクーゼ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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