日本大百科全書(ニッポニカ) 「マルルーニー」の意味・わかりやすい解説
マルルーニー
まるるーにー
Martin Brian Mulroney
(1939―2024)
カナダの政治家。1984年から1993年まで首相を務めた。ケベック州ベイ・コモーにアイルランド系労働者の息子として生まれる。弁護士として成功し、1970年代からケベック州政治で活躍した。1983年に進歩保守党の全国大会で党首に選出され、同年の総選挙で連邦議会に初当選。1984年9月の総選挙で自由党政府を倒してカナダ首相となる。1988年にはアメリカのレーガン大統領と米加自由貿易協定に調印した(この協定は国内での激しい論争と総選挙を経て1989年に発効)。1992年にはメキシコをも含めたNAFTA(ナフタ)(北米自由貿易協定)を締結した(発効は1994年)。
国内問題では、1982年のカナダ新憲法に同意していなかったケベック州をなだめるため、1987年に10州の首相との間でケベック州を「独自な社会」として認める憲法改正案「ミーチ・レーク協定」を成立させたが、すべての州議会での批准を得ることができず失敗に終わる。二度目のさらに妥協的な改正案「シャーロットタウン協定」も1992年の国民投票によって否決され、憲法問題での混乱を深めたのみか、ケベック州での分離・独立運動(ケベック問題)を高揚させる結果を招いた。1989年には巨額の財政赤字に対処するため、7%の物品・サービス税(GST)を導入する。前首相トルドーのようなカリスマ性をもたぬ彼への支持率は急落し、任期終了前の1993年6月に辞任。後継者となったカナダ初の女性首相キム・キャンベルは4か月後の総選挙でマルルーニーの「負の遺産」を払拭(ふっしょく)できず、進歩保守党はわずか2議席へ転落する歴史的な惨敗を喫した。
[木村和男]