フランスのタイヤ・メーカー。自転車からスペースシャトル用まで生産する世界最大規模のタイヤ・メーカーである。道路地図、レストラン・ガイド、観光ガイドの刊行でも知られる。本社所在地はクレルモン・フェラン。
[簗場保行]
同社の創立は1889年にさかのぼり、ミシュラン兄弟によってフランス中部オーベルニュ地方の中心地クレルモン・フェランに誕生した。法学士であり画家を志した弟エドゥアール・ミシュランÉdouard Michelin(1859―1940)が初代社長になり、内務省で地図作成に携わった技師の兄アンドレ・ミシュランAndré Michelin(1853―1931)の協力のもと、祖父が始めた小さな農業機械メーカーを引き継いだ。1891年にミシュランは着脱可能な自転車タイヤの特許を獲得し、その生産に着手。そしてパリ―ブレスト往復自転車レースに、ミシュランの開発したタイヤで出場した選手が優勝して真価を示した。
1895年、自動車が登場すると、ミシュランは従来のソリッドタイヤ(内部にスポンジを満たした旧式タイヤ)にかわる空気入りゴムタイヤを自動車に装着し、プジョーの車体にダイムラーの4馬力エンジンを搭載したエクレール号でパリ―ボルドー往復レースに出場した。兄弟はモータリゼーション時代の到来を確信し、自社製品のプロモーション(販売促進)のため、その後数々のレースに出場して相次いで勝利を収めた。有名なミシュランのシンボルキャラクターであるタイヤ男「ビバンダム」もこうしたプロモーションから生まれ、ポスターを通じて人々に親しまれるようになったものである。
1906年以降はイタリア、北アメリカに工場を建設し世界市場に進出した。また航空機の将来性を予見した兄弟は1908年に航空機の発展を後押しするミシュラン・グランプリとミシュラン・カップを創設している。1910年には初のクレルモン・フェラン近郊の道路地図を発行、1912年に道路標識を立てるキャンペーンを行い、これを契機に里程標の設置が始まる。1913年には全国を網羅する最初の道路地図を発行した。これはドライバーにとって役だつ情報を絞り込んで記載した、見やすく携帯しやすい画期的な地図であった。
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第一次世界大戦中は飛行機製造を手がけるが、終戦後本業のタイヤ生産に専念する。第二次世界大戦までの戦間期、戦中そして戦後30年間は、技術革新と激動の時期であった。1929年に初の鉄道用空気入りタイヤの生産を開始。その後ドイツ、アルゼンチン、ベルギーに工場を建設した。1938年スチールワイヤーを採用した耐久性の高いタイヤ「メタリック」の発売を開始。そして第二次世界大戦後「メタリック」の研究開発を通して、革命的な製品であるラジアルタイヤを発売した。ラジアルタイヤとはカーカス(タイヤの骨格)を構成する繊維層(コード)が回転方向に対して直角に並んだタイヤであり、従来のバイアスタイヤに比べて操縦性、安定性に優れていた。タイヤの寿命を飛躍的に向上させたラジアルタイヤは、その後世界の主流となり、以後ミシュランは30年間にわたって競合メーカーに対し圧倒的優位にたった。
1955年からの15年間は大規模な設備投資を図り、ヨーロッパ以外で3工場、ヨーロッパに12工場を建設した。1974年カナダ、アメリカへ工場進出、さらに1980年代には初の航空機用ラジアルタイヤを発売、フランス軍の戦闘機ミラージュや、エアバス、ボーイングの旅客機のみならずスペース・シャトルにも装着されている。1980年代以後はラテンアメリカ、アジアに進出を果たし、1990年アメリカ大手のユニロイヤル・グッドリッチ・タイヤを15億ドルで買収して北米市場での基盤を固めた。1992年に省燃費性能に優れた「グリーンタイヤ」を発売。1996年以降、東欧や中国に資本参加や合弁により進出後、2001年に中国最大の上海(シャンハイ)タイヤと提携した。
2018年時点で、世界17か国に54工場、ゴム農園1か所(ブラジル)をもち、年間約1億9000万本のタイヤを生産。2017年の世界シェアは14.0%でブリヂストン(14.5%)に次ぐ第2位。2018年の売上高は220億2800万ユーロ、地域別売上高構成はヨーロッパ38.9%、北米・メキシコ35.5%、その他25.6%。従業員数は世界に11万1100人。
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ミシュランはレストラン、ホテルのガイドブックの名前でも知られる。これは道路網が未整備だった当時、市街地図や修理方法・サービス、宿泊施設などドライバーのための情報を掲載し、無料配布したのが始まりである。1900年にこうしたドライバー向けサービスの一環として『ミシュラン・ガイド』(『レッドガイド』)を創刊。もともと自社製品のプロモーションとして始めたサービスであったが、このガイドは年間100万部以上を販売した実績をもつ。ホテルやレストラン業界の経験者などを覆面調査員として各施設に派遣し、星の数(三つ星が最高点)で格付けするスタイルは有名である。評価が記号化されわかりやすいこと、誌面に広告を掲載しない独立性などが、消費者に信頼され、世界中に広まった理由といわれている。また、1926年の初の旅行ガイド『ブルターニュ』創刊以降、ミシュランが蓄積した各地の旅行観光情報を掲載したガイドを相次いで刊行、その後「グリーンガイド」としてシリーズ化されている。
日本では2007年(平成19)にアジアで初めて『ミシュランガイド東京』が発行され、2009年に『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』が発行された。以降、2017年までにミシュラン・ガイドの『京都・大阪2010』、さらに神戸、横浜、鎌倉、奈良、北海道、広島、福岡、佐賀、富山、石川、宮城とエリアを拡大して発行された。
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日本では1975年(昭和50)に全額出資の販売会社、日本ミシュランタイヤを設立しているほか、1991年(平成3)オカモトと合弁でミシュランオカモトタイヤを設立、国産初のミシュランブランドのタイヤ生産を開始したが、2000年にミシュランが全株式を取得し、2001年にオカモトとの合弁を解消した。また、2003年に日本ミシュランタイヤ、ミシュランオカモトタイヤ、ミシュランタイヤ販売の3社を統合して、社名を日本ミシュランタイヤとした。
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(中島富美子 フード・ジャーナリスト / 2009年)
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