翻訳|Muse
ギリシア神話の詩と音楽の女神。ギリシア語でムーサMusa。その系譜と数については異伝が多い。一般的にはヘシオドスに従って、ゼウスとムネモシネ(記憶の女神)の娘で9人姉妹とされる。古くはテッサリアのピエリア地方、そしてボイオティアのヘリコン山に崇拝の中心地をもっていた。彼女たちは詩人や楽人に霊感を与えた反面、おごれる歌人を罰することも多かった。トラキアの楽人タミリスがミューズたちにも負けないと高言したとき、彼女たちは怒ってタミリスの視力を奪い、さらに歌と竪琴(たてごと)の技をも失わせた。また、マケドニアのペッラの王ピエロスの娘で歌自慢の九姉妹が彼女たちに挑戦したとき、女神たちは九姉妹を負かしたうえ、罰として彼女らをおしゃべりなカササギに変身させた。
やがてミューズたちは音楽のみにとどまらず、広く文芸と学問全般の神とされるようになり、プラトンやアリストテレスの学校にはムーセイオン(ムーサの聖所)が設けられていた。今日のミュージアムmuseumという語は、アレクサンドリアの研究・教育機関であったムーセイオンに由来する。ローマ時代には、9人にそれぞれ機能分担させる試みもなされ、カッリオペは叙事詩の、メルポメネは悲劇の、クレイオは歴史の、テルプシコレは合唱や舞踊の、ウラニアは天文学の女神というように、その領域が定められた。
[中務哲郎]
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ギリシア神話の学芸の女神たち。ゼウスとムネモシュネ(記憶)の間の9人の娘。崇拝の中心地はピエリアとアスクラ。ミューズにささげられた研究と教育の機関がムーセイオンであった。
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…しかし,西欧の〈音楽〉に関する概念にもそれなりの変遷があった。英語のミュージックmusic,ドイツ語のムジークMusik,フランス語のミュジックmusique,イタリア語のムージカmusicaなどの語の共通の語源とされるのは,ギリシア語の〈ムシケmousikē〉であるが,それはそもそも〈ムーサMousa〉(英語でミューズMuse)として知られる女神たちのつかさどる技芸を意味し,その中には狭義の音芸術のほか,朗誦されるものとしての詩の芸術,舞踊など,リズムによって統合される各種の時間芸術が包含されていた。このように包括的な〈音楽〉の概念は,ヨーロッパ中世においては崩壊し,それに代わって思弁的な学として〈自由七科septem artes liberales〉の中に位置づけられる〈音楽〉と演奏行為を前提として実際に鳴り響く実践的な〈音楽〉の概念が生まれたが,後者は中世からルネサンスにかけてのポリフォニー音楽の発展につれて,しだいにリズム理論,音程理論などを内部に含む精緻な音の構築物へと進化した。…
…複数形はムーサイMousai。英語ではミューズMuseといい,music(〈音楽〉),museum(〈博物館,美術館〉)の語源。その人数についてはさまざまの伝承があるが,一般にはヘシオドスの《神統記》に従い,ゼウスとムネモシュネ(〈記憶〉)を両親としてオリュンポス山麓のピエリアPieriaで生まれた9人の女神とされる。…
※「ミューズ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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