ムロアジ(読み)むろあじ(英語表記)amberstripe scad

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムロアジ」の意味・わかりやすい解説

ムロアジ
むろあじ / 室鰺
amberstripe scad
[学] Decapterus muroadsi

硬骨魚綱スズキ目アジ科アジ亜科に属する海水魚。北海道南部以南の日本周辺海域、東シナ海、オーストラリア西岸、ハワイ諸島などインド洋・西太平洋、カリフォルニアからペルーなど東太平洋、およびセント・ヘレナ島周辺海域の大西洋の温熱帯海域に広く分布する。体は側扁(そくへん)せずにほとんど円筒形上顎(じょうがく)の後端は目の前縁下に達する。上顎の前端部分と下顎に1列の小さい歯がある。背びれ軟条数は29~32本。臀(しり)びれの前方に2本の遊離棘(きょく)があり、背びれと臀びれの後方にはそれぞれ1本の小離鰭(しょうりき)がある。胸びれは小さく、その先端は第2背びれの起部下に達しない。側線の前半はわずかに湾曲するが、後半は直走し、湾曲部は直走部より長い。直走部の後ろ4分の3は稜鱗(りょうりん)(鋭い突起を備えた肥大した鱗(うろこ)。一般には「ぜんご」「ぜいご」ともいう)で覆われる。頭部背面の鱗は目の前縁に達する。体の背面は暗青色、腹面は銀白色。生鮮時には体側中央に幅広い1本の黄色縦帯がある。鰓孔(さいこう)の上縁に黒い小斑紋(はんもん)がある。口床は全体に黒い色素で覆われる。尾びれの上葉は淡黄色で、下葉は淡灰色。暖流の影響の強い南日本に多く、沿岸域や島嶼(とうしょ)の周辺に群れで生息する。おもに小さい浮遊性の無脊椎(むせきつい)動物を捕食する。全長約40センチメートルに達する。産卵期は5~6月。巾着(きんちゃく)網、トロール網延縄(はえなわ)などで漁獲される。肉質は脂質が少なく、鮮魚としては肉のしまりがよくないので喜ばれないが、塩干品にすると肉に弾性が生ずるようになる。近縁種のクサヤモロとともに「くさや」の干物にするほか、ひと塩の生干(なまぼ)しなどにもする。

 本種は体形、側線の直走部の稜鱗が後部の4分の3を覆うことなどでモロに似るが、モロは頭部背面の鱗が目の中央部に達しないこと、背びれ軟条数が32~38本であることなどで本種と区別できる。また、頭部背面の鱗が目の中央部またはそれより前方に達することなどでクサヤモロに似るが、クサヤモロは側線直走部の稜鱗が後ろ半分を覆うこと、生鮮時には体側に1本の青色の縦帯があること、口床の後ろ半分が淡色であることなどで本種と異なる。

[鈴木 清・尼岡邦夫 2023年11月17日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ムロアジ」の意味・わかりやすい解説

ムロアジ (室鰺)
Decapterus muroadsi

側線上にぜんごがあるスズキ目アジ科の海産魚。ムロアジ類は日本近海に7種分布するが,背びれとしりびれの後に一つずつ小さい離鰭(りき)がある。これはマアジなどにない。標準和名ムロアジのほか,モロD.lajangも一般にムロアジと呼ばれ混同されることが多い。形態はよく似ているが,前者は頭頂のうろこが眼の前端部の上部まで見られるが,後者では眼の中央部あるいは後端の上部付近で終わっている。ムロアジは別名アカゼと呼ばれ,キンタカ,キンムロ(和歌山)の名もある。マアジより筒型で,背は黄緑色,腹部銀白色,体側に濃い黄色の1縦帯がある。全長35~40cmに達する。産卵期は5~6月。鮮魚として利用され,干物にはしない。夏とくに美味で,刺身,塩焼きにする。手釣り,棒受網,巻網で漁獲する。モロはムロアジより背の青みが強く,アオムロ(和歌山)ともいう。ミズムロ(和歌山,高知)と呼ばれるのはやや水っぽいからで,干物として賞味される。くさやの原料にもなる。ムロアジ類ではもっともふつうに見られる種類で,本州中部以南,小笠原諸島などに分布。全長30cmになる。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「ムロアジ」の意味・わかりやすい解説

ムロアジ

アジ科の魚のうち,背びれとしりびれの後方にそれぞれ1個の離れびれをもっているムロアジ属の総称。とくに赤みを帯びていないものを指していう。日本にも数種。このうち高価なものにくさやの干物にするクサヤモロ(全長40cm),量的に多いものにモロ(全長30cm)がある。いずれも亜熱帯性で,本州中部以南に分布する。
→関連項目アジ(鰺)

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

栄養・生化学辞典 「ムロアジ」の解説

ムロアジ

 アジといわれる海産魚のうちの,一つのグループの名称をいう.モロ(slender mackerel)[Decapterus macrosoma],クサヤモロ(blue mackerel)[D. macarellus],ムロアジ(アカゼ)(brownstriped mackerel)[D. muroadsi],オアカムロ(redtail scad)[D. tabl],などをいうが,アカゼをいうことが多い.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ムロアジ」の意味・わかりやすい解説

ムロアジ
Decapterus muroadsi

スズキ目アジ科の海水魚。全長 40cm内外。体はあまり側扁せず,円筒形に近い。楯鱗は体後方側線の直走部にある。背面暗青色,腹面は銀白色。体側中央に赤褐色の縦走する帯があるが,死後は黄変する。本州中部以南,東シナ海に分布する。夏季に特に美味で,重要食用魚。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のムロアジの言及

【クサヤモロ】より

…【清水 誠】。。…

※「ムロアジ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android