乾肉(ほしにく)、乾燥野菜なども干物の一種であるが、一般には魚貝藻類を乾燥し、貯蔵性をもたせたものをいう。生鮮食品を常温に放置すると急速に腐敗するが、水分を35~40%まで減らすとはるかに長期間貯蔵できるようになる。これは、水分減少により腐敗細菌が繁殖しにくくなるためである。しかし、カビは水分15%ぐらいでも繁殖する。そのため干物は缶詰や冷凍に比べると不完全な貯蔵食品である。最近はあまりひどく干したものは食味が悪くなるので一般に好まれず、生(なま)干し(水分60~70%)程度のものが好まれるようになった。そのため、乾燥という手段は貯蔵性を増すというより、原料から別のうま味をもった食品をつくるための手段とされるようになった。
[金田尚志]
水産物の干物のうち、量的に多いものは素干し、塩干し、煮干しであるが、凍(こおり)干し、焼き干し、調味干しなどもある。
(1)素干し 魚貝藻類を生のまま乾燥したもの。肉厚のものは向かない。製造は簡単であるが、加熱していないので、原料に含まれる酵素類が活性を失っていないため、製造中および製造後、品質が劣化しやすい。生産量の年変動はそれほど大きくないが、たとえば1998年度(平成10)において量的に多いのは、するめ(1.4万トン)、身欠きにしん(1.3万トン)などで、このほか、たづくり、たたみいわし、さめのひれ、干しだこ、海苔(のり)、昆布(こんぶ)、わかめ、あおさ、ひじきなどがある。
(2)塩干し 魚貝類を塩蔵後干したもの。塩干しはもともと食塩を魚貝中へ浸透させることにより貯蔵性を高めようとした加工品で、現在でもタラの塩干しにはこうしたものがある。しかし、最近は塩気の薄いものが好まれるため、一般の塩干しは食味を向上させる程度にしか食塩を使用しない(魚肉中1%以下)。そのため、食塩による防腐はほとんど問題とならず、また生干しが好まれるので、製品は冷蔵庫に貯蔵する必要がある。薄塩のものには食塩水中に魚体を浸漬(しんせき)する立塩(たてじお)法がおもに用いられる。また貯蔵性をもたす塩干したらなどは、魚体に食塩をふりかける撒塩(まきしお)法による。塩干しあじ(6.4万トン)、塩干しいわし(3.1万トン)が多く、このほか、さんま、さば、ほっけ、とびうお、開きだらなどいろいろあるが、製法はいずれも似ている。
(3)煮干し 魚貝類を煮熟後、天日または乾燥機で乾かしたもの。量的に多いのはカタクチイワシからつくる煮干しいわし(3.8万トン)、しらす干し、いかなごなど。
なおアワビ、ナマコなども干物にして中国料理に用いる。干しあわびは「干しこ」とか「蒸しあわび」とよばれ、明鮑(めいほう)と灰鮑(かいほう)とよぶ2種がある。ナマコの煮干しは「いりこ」という。さめのひれの軟骨と表皮の間にある筋糸を煮て干したものは堆翅(たいし)という。またサメ、エイなどの軟骨を煮て干したものは明骨(めいこつ)という。
(4)凍干し 魚を凍結、融解を繰り返して乾燥させたもの。製造原理は寒天と同じである。韓国の明太(ミンタイ)はスケトウダラの凍乾品。
(5)焼干し 魚貝類を焼いて干したもの。生産量は少ないが、焼きわかさぎ、浜焼き鯛(たい)など地方の名産品となっているものが多い。
(6)調味干し 生鮮魚をしょうゆ、砂糖を主体にした調味液につけてから乾かすみりん干し(2.6万トン)型と、生鮮魚を煮干しまたは焙乾(ばいかん)したのち調味液につけてさらに焙乾する儀助(ぎすけ)煮型がある。このほか、生干しの状態にしたのち調味液につけて乾燥する裂きいか型のものもある。
[金田尚志]
魚貝類の乾燥品。水分を減少させることによって,細菌類の繁殖をおさえ,腐敗を防げるため,古くから保存食品として重用された。乾物(かんぶつ)も本来は同義であるが,現在では一般に植物性のものを指し,干物と区別することが多い。古代日本では〈からもの(干物)〉と呼び,生鮮魚貝類の少なかった平安京では副食品としてきわめて重要であり,《延喜式》によると都の西の市には干魚の店もあった。削って食べるものが多かったため〈削物(けずりもの)〉の称もあり,干鳥(ほしどり),楚割(すわやり),蒸蚫(むしあわび),焼蛸(やきだこ),干鯛(ほしだい)などは宮廷の宴会には欠かせぬものであった。干鳥は鳥肉とくにキジを干したもの,楚割は魚肉とくにサケを細く切って干したもの,蒸蚫はアワビを蒸して干したもの,焼蛸はタコを石焼きなどにして干したものであった。
現在市場に出回っている干物を製造法によって分類すると,素干し,煮干し,塩干し,焼干し,調味干しなどとなる。素干しは塩を加えずにそのまま乾燥させるもので,するめ,ごまめ,かずのこ,身欠きニシンなどがある。塩干しは塩をつけて乾燥させたもので,干物といえば通常この類をいう。イワシの目刺しや丸干しのほか,アジ,サバ,サンマなどの開き,干(ひ)ダラなどがある。焼干しは焼いて乾かしたもので,アユ,フナ,ワカサギ,ハゼなどでつくる。調味干しは,みりん干しのように調味液につけてから乾かしたもので,イワシや小型のアジやカレイなどでつくる。ムロアジ,トビウオなどのくさやもこれに属するかもしれない。
→乾物屋
執筆者:鈴木 晋一+平野 雄一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…さかなは酒肴,肴物ともいった。さかなとして供された食物の種類は多岐にわたるが,室町期までは干物(からもの),削物(けずりもの)などと呼ばれた魚貝類の乾燥品が多かった。しかし,1136年(保延2)12月に藤原頼長が催した大饗(だいきよう)のように,蒸しアワビ,キジの乾肉以下の干物8種,コイ,キジ,マス,スズキ,タイを含む生物8種その他といった例もある。…
…水分を減少させることによって,細菌類の繁殖をおさえ,腐敗を防げるため,古くから保存食品として重用された。乾物(かんぶつ)も本来は同義であるが,現在では一般に植物性のものを指し,干物と区別することが多い。古代日本では〈からもの(干物)〉と呼び,生鮮魚貝類の少なかった平安京では副食品としてきわめて重要であり,《延喜式》によると都の西の市には干魚の店もあった。…
※「干物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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