メルセデス・ベンツ・グループ(読み)めるせですべんつぐるーぷ(英語表記)Mercedes-Benz Group AG

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

メルセデス・ベンツ・グループ
めるせですべんつぐるーぷ
Mercedes-Benz Group AG

ドイツを代表する高級自動車メーカー・グループ。世界最古の自動車会社を源流とし、販売台数で世界10位前後に位置する。社名ダイムラー・ベンツ(1926~1998年)、ダイムラー・クライスラー(1998~2007年)、ダイムラー(2007~2022年)と変遷し、2022年から現社名になった。「Sクラス」「Gクラス」などの高級車のほか、バン型乗用車「Vクラス」、スポーツ車「AMG」、電気自動車「EQS」などの車種ブランドをもつ。脱炭素を目ざす世界的な潮流を受け、ガソリンエンジン車に見切りをつけ、高級車、電動車に特化する方針を打ち出している。フランクフルトシュトゥットガルトの両証券取引所に上場。なおスペイン語で「慈悲」を意味するメルセデスは、もともとダイムラーという硬い印象を和らげるために、有力販売店主の娘の名からとったもので、1899年のカーレース出場車に採用して以降、高級車路線をとる同社の代名詞として定着した。

 現在のガソリンエンジン自動車の歴史は、1886年、ゴットリープ・ダイムラーが四輪型を発明し、同年、カール・ベンツが三輪型の特許を取得したときに始まる。メルセデス・ベンツ・グループは二人がそれぞれ創業したダイムラー・モトーレン社とベンツ&Cie.社を源流とし、両社の合併社(ダイムラー・ベンツ社)が誕生した1926年を設立年としている。1930年に「グラッサー・メルセデス」(巨大なメルセデス)とよばれた高級大型車「メルセデス・ベンツ770」の生産を開始。第二次世界大戦後の1950年代には、悪路を走破できる多目的四輪駆動車「ウニモーク」を開発し、乗用車と商用車の両輪で成長を遂げた。1960年代に鉄鋼造船のラインスタール社のトラック工場や、鉄鋼のクルップ社のトラック販売部門を吸収し、1977年にアメリカの建設機械のユークリッド社を買収、1989年に航空機のメッサーシュミット・ベルコウ・ブローム(現、エアバス・グループ)社を吸収するなどして事業を多角化した。しかし1990年代、マルク高による航空機部門の業績不振で、有力子会社のメルセデス・ベンツ社の吸収(1997)、小型車「Aクラス」の発売(1997)、航空宇宙部門の分離(2000)などの経営改革を進めた。1998年には海外戦略の強化と経営基盤の安定のため、アメリカのクライスラー社と合併してダイムラー・クライスラー社となったが、クライスラー部門の不振が続き、2007年に売却してふたたびダイムラー社(現在、クライスラーはステランティス傘下)となった。この間、三菱(みつびし)自動車工業や現代(ヒョンデ)自動車とも提携したが、アジア戦略の失敗で、現代自動車とは2004年、三菱自動車工業とは2005年(平成17)に提携を解消。一方、2010年にルノー・日産グループ(現、ルノー・日産・三菱自動車連合)と業務提携し、2016年に大手カーリースアスロン社を傘下に収めた。2019年、創業時からの基幹事業であるエンジン開発をやめて、2030年までに、すべての車を電動化する計画を発表した。2021年、トラック・バス(商用車)部門をダイムラー・トラック・ホールディングスとして分離・独立させてフランクフルト証券取引所に上場。ダイムラー社は社名を傘下の高級車事業会社名のメルセデス・ベンツへ変更した。本社はドイツのシュトゥットガルト。傘下に、高級車のメルセデス・ベンツ、電動車のメルセデスEQ、スポーツ車のメルセデスAMG、金融のメルセデス・ベンツ・フィナンシャルサービス、リース・カーシェアリングのアスロンなどをもつ。2021年の売上高は1680億ユーロ、純利益234億ユーロ。従業員数約17万2000人。

[矢野 武 2022年9月21日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android