翻訳|Mongoloid
アジア大陸の東半分、およびその南東ないし東方に散在する島々、ならびに南北アメリカ大陸に広く分布する人種群。地球上の全人口の約3分の1がこれに属する。モンゴロイドとは「モンゴル人のようなもの」という意である。しばしば黄色人種とよばれるが、その皮膚を黄色と称するのは当を得ていない。別の呼称である蒙古(もうこ)人種は蔑称(べっしょう)の意を含み、アジア人種、東洋人種は地域があいまいなため好ましくない。
[香原志勢]
皮膚の色はごく淡褐色からかなり濃褐色まであり、日焼けしやすい。日照の強い地方ほど皮膚の色は濃い。虹彩(こうさい)は褐色ないし暗褐色。毛髪は黒色が普通で、太くてこわく、直毛が一般的。女性の頭髪はしばしば身長以上に伸びる。男性は比較的禿(は)げにくい。若干の例外はあるが、体毛や顔毛は少ない。小児の臀部(でんぶ)から背部の皮膚には青い小児斑(はん)がみられる。身長は中等度か、やや低い。頭形は中頭から短頭のものが多い。頬骨(きょうこつ)は突出し、顔は平面的なものが多い。鼻根部を含め鼻のいわゆる高さのごく低いものがみられるが、通常は中程度。鼻の幅も中程度。眼裂は細い。上眼瞼(がんけん)の内側縁がひだ状に目頭を覆う内眼角ひだが発達する。北部居住の者ほど一重まぶたが多い。唇は薄いが、やや厚いものもいる。軽度の歯槽性突顎(とつがく)はしばしばみられる。上顎切歯の舌側面にくぼみがあるシャベル型切歯は一般的である。指紋は渦状(かじょう)紋が多く、弓状紋は少ない。アジアのモンゴロイドの血液型はB型が多く、A型は少ない。A2型やRh(-(マイナス))型はまれである。南北アメリカ大陸のモンゴロイド(アメリカ・インディアン)はほとんどがO型で、一部の集団のみにA型が存し、B型は存在しない。
[香原志勢]
後期旧石器時代の中国、周口店山頂洞人や資陽人は原モンゴロイド的特徴をもつ。おそらくモンゴロイドは、中国またはその周辺起源のものであろう。原モンゴロイドは北東アジアにまで広がったが、最後の氷期の寒気が募ると、一部のものは小集団に分かれ、海退で生じたベーリンジャ(ベーリング陸橋)を通ってアラスカに渡り、以後南北アメリカ大陸に分散し、今日のアメリカ大陸の先住民(アメリカ・インディアン)となったと考えられる。一方、北東シベリアに残った集団は、その南方に連なる山脈にできた氷河によって退路を断たれ、極度の寒気に当面し、寒地に適した衣食住や狩猟法の発明という文化的適応とともに身体的適応を果たした。彼らは乾燥酷寒の環境に生き残り、氷河期が終わると南下を開始し、それまでに培った文化的適応力を発揮し、勢力を広げ、各地の先住民と混血し、東アジア全域に影響を及ぼした。これが現在のモンゴロイドの分布である。アメリカ大陸には原モンゴロイド的要素をもつアメリカ・インディアンが存し、アジアには寒冷適応を経た新モンゴロイドが分布するのである。新モンゴロイドの平面的で幅広い顔、はれぼったい細い目、少ない顔毛、厚い皮下脂肪、ずんぐりした胴体、短い四肢は乾燥酷寒の気候に適している。このような特徴は北アジアに分布する集団ほど著しい。
[香原志勢]
モンゴロイドはさらに地域的な諸人種に分けられる。
(1)極北人種 旧アジア人種ともいう。皮膚の色はごく淡い。シベリア北部に分布。
(2)北部モンゴロイド 寒冷適応型の典型。淡黄褐色の皮膚。顔毛や体毛が少ない。極度に平面的な顔。眼裂はごく細い。エベンキで代表される。
(3)中部モンゴロイド 中国人が代表的。身長は高く、顔は長い。
(4)南部モンゴロイド 中国南部からインドシナ半島に分布。皮膚の色は褐色ないし濃褐色。短頭、丸顔が多く、歯槽性突顎をもつものがいる。日本人は、これから派生したものが中核となっていると考えられる。
(5)インドネシア・マレー人種 モンゴロイド的特徴は比較的希薄。皮膚はかなり濃色。
(6)エスキモーおよびイヌイット 顔は幅広く、寒冷適応を示す。顎骨が発達。
(7)アメリカ・インディアン 広大な地域に分散するため、外貌(がいぼう)にある程度の地域差がある。しばしばモンゴロイドから切り離されて扱われる。
モンゴロイドの皮膚は全人類のなかでは中間的であるため、各気候に対する適応性が高く、今日、モンゴロイドのなかには世界各地に移住し、繁栄しているものもいる。
[香原志勢]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
いわゆる三大人種の一つ。頭髪は剛毛で黒褐色ないし真黒色,皮膚の色は黄色ないし黄褐色,目の虹彩は褐色ないし黒褐色,眼裂は狭く上がり目,内端には蒙古皺襞(もうこしゅうへき)の特徴を示す。眼瞼はおもく,鼻根は平坦,眉間(みけん)から鼻部への隆起も低い。肩幅広く,四肢短く,身長も一般に低い。乳児は蒙古斑(もうこはん)を持つ。分布は,シベリア,東アジア,東南アジア,西南アフリカ,南北アメリカである。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
黄色人種・蒙古系人種とも。コーカソイド,ニグロイド,オーストラロイドと並ぶ四大人種の一つ。中間色で黄色みを帯びた皮膚,黒く太い直毛,蒙古ひだのある細い目,平坦な顔,うすいひげと体毛,胴の長さに比して相対的に短い四肢などを特徴とする。日本を含む東アジアを中心に,東南アジア・北アジアに広く分布。アメリカ大陸の原住民もモンゴロイドの分派と考えられる。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…最低8個体分と見られる人骨の中には,椎骨,脛骨など体肢骨破片のほかに,かなり完全な頭蓋3個が含まれている。39年,ワイデンライヒは,老年男性頭蓋は原始的モンゴロイドに,二つの壮年女性頭蓋はそれぞれメラネシア人とエスキモーに類似するとし,上洞人の家族が異なる種族から構成されていたと述べている。これらの化石は,41年北京原人とともに紛失してしまったが,そのレプリカを再吟味した呉新智は,61年,上洞人に現在の中国人,エスキモー,アメリカ・インディアンに類似する特徴を認め,彼らは原始的モンゴロイドを代表するものであるという結論に達した。…
…西はトバカカール山脈,北はカラコルム,ヒマラヤ両山脈,東はアラカン山脈によって画され,南はインド洋に大きく逆三角形状に突出する一大半島部は,アジア大陸の一部ではあるが,亜大陸とよぶにふさわしい規模と相対的独立性とをもち,インド亜大陸とよばれる。そこは南アジアともよばれ,インド(バーラト),パキスタン・イスラム共和国,バングラデシュ人民共和国,ネパール王国,ブータン,スリランカ民主社会主義共和国およびインド洋上のモルジブ共和国の7ヵ国からなる(現代の各国についてはそれぞれの項を参照)。…
…身長は中等度か高い。(2)モンゴロイド大人種 皮膚の色は淡黄色から褐色で,毛は少なく,ひげはうすい。短頭で,頭髪は直毛,虹彩は黒色ないし濃褐色である。…
…旧人段階ですでに認められたヨーロッパ,西アジア,北アフリカの人類集団の地域性は,ウルム氷期後半にいたってますます鮮明となり,同じ地域に現存するコーカソイドの母体となった(コーカソイド大人種)。コーカソイド以外の地理的人種であるニグロイド,モンゴロイド,オーストラロイドが分化したのもほぼ同じ時期で,東アジア起源のモンゴロイドの一派は,当時陸化していたベーリング海峡を渡って新大陸へ移住した(モンゴロイド大人種)。約1万年前にウルム氷期が終わり,更新世から完新世(沖積世)に変わるとともに,人類の文化は後期旧石器文化から新石器文化へ発展した。…
※「モンゴロイド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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