翻訳|Malay
東南アジアのマレー半島,東マレーシア,スマトラ東岸やその周辺に散在する小島群におもに居住する民族。マライ人とも呼ばれる。アウストロネシア(マレー・ポリネシア)語族に属するマレー語を話す。その先祖はプロト・マレー人と同系統であり,紀元前2500-前1500年ごろ南中国の雲南あたりから南下してきたものといわれている。一般に,航海術に秀でて,フィリピン群島やインドネシア諸島,アフリカ東岸近くのマダガスカル島にまで渡ったという。現在のマレー人はタイ族,インド人,中国人,アラブとの混血である。平均身長は約163cm,頭は短頭型,皮膚は黄褐色か赤茶色で,髪と目は黒色である。
マレー文化は,タイ,ジャワ,スマトラの諸文化の混合の産物である。歴史的には紀元前1世紀ごろからインド文化の影響を強く受け,15世紀にイスラム化されるまではインド文化が生活の基調であった。ラジャ(王)を頂点とする支配体制,ヒンドゥー教,仏教を中心にした王朝文化,インド的芸術などが導入された。現在でもマレー人の作法や伝統芸術にはインド文化が色濃く残っている。イスラムの伝播によってスルタンを頂点とする支配体制が確立され,慣習法(アダット)に加えてイスラム法(シャリーア)による婚姻,離婚,相続の規定が定着し,文字もアラビア文字が一般化した。19世紀末から西欧文化,とくにイギリスの文化の影響を受け,ローマ字の使用が普通となった。近年は都市化が進み,マレー人の都市居住者も増加しつつあるが,都市には中国・インド系住民が多く,大多数のマレー人は村落居住者である。川沿い,道路沿いに細長いリボン状の集落が多い。家屋は地上1.5~2mくらいの高床家屋が一般的であり,ヤシ科の葉アタップを敷いた切妻の屋根が普通であったが,最近はトタンやタイルの屋根が増加している。生業は圧倒的に稲作や漁業が多く,ゴム栽培も盛んである。
伝統的にマレー人社会は貴族と平民に分かれている。村には村長や長老を中心とする村組織があり,村の中心にモスクがある。聖職者のいないイスラムでは,礼拝のときの導師(イマーム)が村の宗教の代表者として村人の尊敬を集めている。家族は夫婦と未婚の子女からなる小家族であり,子どもは結婚すれば原則として独立家屋に住む。家族には姓がなく,人は自分の名のあとに父の名を用いる。財産は慣習法とイスラム法のどちらかによって相続され,前者では異性均分,後者では娘は息子の1/2を相続する。マレー人は例外なくイスラム教徒であり,スンナ派のシャーフィイー派に属する。イスラムは一般に強く信奉され,金曜日の礼拝日には多数の人がモスクに集まり,余裕のある人はメッカへ巡礼して,ハジと呼ばれて尊敬される。断食の月には毎日中断食が行われ,稲作農民は収穫の1/10を宗教税として支払う。豚肉は不浄の肉として食べず,犬も不浄の動物として飼われない。儀礼のときには,男性はトルコ帽をかぶりシャツを着てサロンをはく。女性はマレー式ブラウスにサロンを身につける。しかしイスラム以前からの精霊信仰はいまだ残っており,この精霊の力によって病気を治すボモと呼ばれる呪医もいる。また伝統的なクンドゥリと呼ばれる共食儀礼が機会のあるたびによく行われる。
執筆者:口羽 益生
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
本来は、マレー語の「ムラユMelayu」を語源とする人種・民族名称である。もっとも狭義の解釈としては、今日のマレーシア連邦が定めた「イスラム教を信仰し、マレー語を話し、マレーの慣習(アダット)に従う人々」という公式的定義がある。この場合基本的には文化指標に依拠した人々の総称だといえる。しかし、一般的にはマレー半島からインドネシアのリアウ、リンガ群島、スマトラ東岸にかけての地域にとくに集中し、またボルネオ島やジャワ島などの諸地域のとくに沿岸地帯にかけて広く分布する、いわゆる「沿岸部マレー人」と、ほぼ同義的に使用されることも多い。これらのマレー人は古くから航海や交易に活躍し、共通語としてのマレー語とイスラムの普及に密接にかかわりをもった人々といわれる。ただし、沿岸部マレー人は、文化的にも人種的にも同質とは考えられず、ジャワ人やマカッサル人などのインドネシアのほかの現地住民をはじめ、もともとは遠来のアラブ人やインド人などの多様な文化的、人種的要素が混入しているとみなされている。
また、マレー人のもっとも広義の解釈は、学術上のもので、文化的あるいは身体的特徴と東南アジア大陸部から島嶼(とうしょ)部への移住時期の新旧を基準にして、原マレー人(旧マレー人、古マレー人Proto-Malays)と続成マレー人(第二次マレー人、新マレー人Deutero-Malays)という二つの大範疇(はんちゅう)を設定し、今日の東南アジアの主として島嶼部の多くの土着的住民を分類するものである。たとえばスマトラのバタック人、ボルネオのダヤク人、スラウェシのトラジャ人は前者に、狭義のマレー人(沿岸部マレー人)やジャワ人などは後者に分類される。
[富沢寿勇]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
オーストロネシア語族に属するマレー語を母語とすることやイスラーム教徒であることを主な文化指標とする東南アジアの民族。マレー半島,スマトラ,ボルネオなどが居住地で,マレーシアやブルネイでは多数派を占める。古代にはシュリーヴィジャヤ王国を形成し,近世にはマラッカ,ブルネイなどの多数の港市国家群を形成した。近世の東南アジア島嶼部の共通語となったマレー語は,交易の活性化やイスラームの拡大に重要な役割を果たした。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…やせたラテライト土壌に育つ森林は,ひとたび自然の状態を変えられると再生能力が低下し,低木とシダ類の下生えの二次林(ブルカーbelukar)や,丈の高い雑草(ラーランlalang)の土地と化し,生産性の高い農林業のできない土地が出現しつつある。
【住民】
総人口の4/5が半島部に居住し,その半数強がマレー人である。しかし島嶼部ではダヤク族と総称される人々(カダザン,ムルット,バジャウ,イバン,陸ダヤクなど)が3/5を占め,マレー人は華人(中国人)の1/4強よりも低い1/8強の少数にすぎない。…
※「マレー人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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