改訂新版 世界大百科事典 「ヤガ」の意味・わかりやすい解説
ヤガ (夜蛾)
owlet moth
鱗翅目ヤガ科Noctuidaeの昆虫の総称。全世界にわたり2万種以上を産すると思われ,鱗翅目中最大の科である。日本には約1300種が分布する。形態的にも多様で,十数亜科に分かれる。一般には体は太く強壮で,強い飛翔(ひしよう)力をもち,夜間に行動し,よく発達した口吻(こうふん)で花みつ,樹液,果汁などを吸収する。生態的な適応性にすぐれ,雪線に近いヒマラヤの高山帯から,亜寒帯,温帯,熱帯の森林や草原,海浜や海洋島の植生に至るまで,固有な種が定着している。
幼虫は主として樹木,草本の葉を食べ,ごく一部の群れは針葉樹,シダ類,コケ類,地衣にもつき,まれにカイガラムシなどを捕食する肉食性の種もある。栽培作物の害虫となる種もこの科に多く,カブラヤガなどのモンヤガ類,ヨトウガ,アワヨトウ,ハスモンヨトウ,タバコガ,フタオビコヤガなどは日本でも著名である。また熟した果実に加害するエグリバ類やアケビコノハなど,防除がむずかしい。しかし森林害虫となる種は少なく,自然界の食物連鎖のシステムのなかでは,野鳥類の重要な食物源となっている側面があろう。昼間は地物や林中に潜むので,前翅はじみな隠ぺい色を呈する種が多いが,後翅には鮮やかな白色,黄色,赤色,青色などのはでな色彩をもつ種もある。開張10cmをこえるヨコヅナトモエのような大型種から,開張1cm以下のコヤガの類まで,姿は多様である。
執筆者:杉 繁郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報