ヒョウタン(読み)ひょうたん(英語表記)bottle gourd

翻訳|bottle gourd

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒョウタン」の意味・わかりやすい解説

ヒョウタン
ひょうたん / 瓢箪
bottle gourd
[学] Lagenaria siceraria Standley var. gourda Makino

ウリ科(APG分類:ウリ科)の一年生つる草。ユウガオの1変種。ユウガオの果肉には苦味がないのに対し、ヒョウタンは苦味が強くて食用にならず、また果実の形が途中でくびれた、いわゆるひょうたん形のものが多いことなどが相違点である。植物体の形状はユウガオによく似る。全体に軟毛があり、巻きひげで他物に絡みついて伸びる。夏、葉腋(ようえき)に長い柄のある白色の単性花を開く。雌雄異花で、夕方に開花し翌朝しぼむ。果実が成熟すると、果皮は非常に堅くなるので、酒や水の容器として利用される。

 地域ごとに分化して多くの品種があり、センナリビョウタンは、ヒョウタンより小形の果実が数多くなる。豊臣(とよとみ)秀吉が馬印に用いたことで知られる。また果実が大きいオオヒョウタン、野球のバット状に長いナガヒョウタンなどがある。これらは果実が未熟なうちに縄などを巻くと人工的な造形も可能で、果実の首の部分がとくに細長く伸びるツルクビヒョウタンとよばれる品種は、二つ割りにすると柄杓(ひしゃく)ができる。

 春、苗床に種子を播(ま)いて苗を育て、定植する。普通は垣根や日よけ棚などにはわせて栽培し、風流を楽しむ。今日、日本ではヒョウタンの品種は多くはないが、サバナ農耕文化圏ではいまも重要な作物の一つで、果実の大きさ・形とも多種多様のヒョウタンが栽培され利用されている。容器をつくるには、完熟果を収穫し、口の部分に小さい穴をあけて水に浸(つ)け、果肉を腐らせ、水に溶け出させて除いたのち、十分に洗って乾燥する。

[星川清親 2020年2月17日]

文化史

最古の栽培植物の一つで、ぺルーのアヤクチョの洞窟(どうくつ)から紀元前1万3000~前1万1000年、メキシコのオカンポ洞窟から前7000年ころ、中国の河姆渡(かぼと)遺跡から6500年前、日本の鳥浜貝塚(福井県若狭(わかさ)町)から8500年前のヒョウタンの果皮や種子が出土している。原産地は、野生種の存在、種子の形の多様性からアフリカとみられる。それが旧石器時代すでに南アメリカに渡来していた点については、大西洋漂流説があるが、異説もある。

 用途は、水入れのほか、酒、牛乳、香辛料、石灰、塩、炭入れ、食器、酒杯、柄杓、薬壺(くすりつぼ)、矢筒、花器、茶器、虫籠(かご)など多様な容器、種播(ま)き器や箕(み)、種子入れなどの農具、浮きや魚籃(びく)としての漁具、喫煙器具、帽子、服飾品、装飾品、仮面、御守り呪術(じゅじゅつ)や祭事用品、シンボル、食料、薬用、楽器とさまざまな分野にわたり、100を超える。楽器としては、東南アジアの笙(しょう)、インドのシタールビーナ、コプラ笛、タイのピンナムタオ、アフリカのコラ、マリンババラフォン)、サンザ、太鼓、アメリカのマラカス、メキシコのギロ、タバサ、ハワイのフラダンスの太鼓など多様な民族楽器がある。弓と組み合わせた弓琴(きゅうきん)はもっとも古い楽器の一つで、現在もガボンのムベット、ブラジルのビリンバウなどに残る。

 ヒョウタンは苦味の顕性遺伝子をもち、苦いが、ユウガオ(かんぴょう)はそれが潜性で生鮮野菜として中国、熱帯アジア、アフリカなどで食用にされる。日本ではくびれるのをヒョウタンとして区別するが、形は丸形や長形のユウガオまで連続してさまざまである。

 苦味のあるヒョウタンは、古来中国では薬とし、『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』には浮腫(ふしゅ)に効くとされ、現代の中国でも糖尿病治療薬に研究されている。

 ヒョウタンは中国の兄妹始祖型洪水伝説、イースター島のマケマケ神話など人類誕生の神話や伝説にかかわる。中国では、ヒョウタンの中に別世界があり、道教の八仙の一人鉄拐(てっかい)仙人はその霊気で不老長寿を保つとされた。漢方医のシンボルに使われ、かつて魔除(まよ)けや御守りにされたのも、その思想による。孫悟空(そんごくう)がヒョウタンの中に吸い込まれたり、「ヒョウタンから駒(こま)が出る」という日本の諺(ことわざ)も、ヒョウタンの中に別世界があるとの考えに基づく。なお、「ヒョウタンから駒」の諺は、ヒョウタンから米が出る『宇治拾遺(うじしゅうい)物語』のスズメの恩返しや、『今昔(こんじゃく)物語』の僧の実力競べが基になった「ヒョウタンからコメ」から派出したとの見方もある。ヒョウタンの名は、『和漢朗詠集』の「瓢箪屡空(しばしばくう)」から広がったとされる。これは『論語』で、顔回(がんかい)の清貧を表す「一瓢の飲」「一箪の食」の瓢と箪(飯盛り器)を、誤って瓢箪と重ねたことによる。古名はひさご、あるいはふくべ。

 世界各地で土器に先だつ歴史があり、生活に深く結び付き、神話・伝説に登場し、儀式や儀礼、呪術などにもかかわり、ヒョウタンは文化に値する意義をもつといえよう。

[湯浅浩史 2020年2月17日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒョウタン」の意味・わかりやすい解説

ヒョウタン(瓢箪)
ヒョウタン
Lagenaria siceraria var. gourda; gourd

ウリ科のつる性の一年草で,干瓢 (かんぴょう) をつくるユウガオ (夕顔)の変種とみなされている。熱帯アジアの原産で古くからヨーロッパやアジアで栽培の歴史がある。全体に毛があり,茎は長く伸びて,分岐する巻きひげで他物にからみつく。葉は互生し,心臓状円形で柄があり,しばしば掌状に浅裂する。夏に,葉腋に白色花を単生して夕方に開く。雌雄同株で,雄花には長い柄があり,雌花の柄は短い。果実はいわゆる瓢箪形で果肉は苦くて食用にはならない。成熟すると果皮が硬くなり,内部の果皮を取除いて酒器などをつくる。ヒサゴ (瓢) の古名があり,地方によっては現在もこの名で呼ばれている。

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