翻訳|Lepidoptera
昆虫の中で甲虫類に次いで種数が多い一群で,通常体全体の表面が鱗粉または鱗毛でおおわれている種類でチョウやガがこれに当たる。
鱗翅類は中生代に入って爬虫類が飛躍的な発展を遂げる三畳紀ころに特徴のある一群として分化したと考えられる。すなわちさなぎという期間をもち完全変態をするようになったシリアゲムシ目(長翅類)が,さらに進化し脈翅目(クサカゲロウなどの仲間)やトビケラ目(毛翅類)を派生した後,トビケラ目かそれに近い群から分化したと考えられている。
その理由は体の各部の構造,翅脈や鱗粉などの比較によるものである。たとえば口器が原始的な鱗翅類ではトビケラ目と酷似していること,翅脈についても共通点が多くとくに横脈が少ないことなどがあげられる。また,発生学的には体表に生えている毛が扁平な花弁状に変形し,付け根が体表面に並ぶソケットに付いた状態になったものが鱗粉であって,トビケラ目の種類にも鱗粉をもつものがあるなど共通性が多い。
したがってジュラ紀には現在のトビケラに近い形のものがコケなどを食べていたと思われ,それが白亜紀に入って被子植物が進化発展したのに伴って分化し,口器は小あごの変化した吸収型の長い口吻(こうふん)に変わり,花からみつを吸う生活様式をとるようになったと推定される。種類は熱帯,亜熱帯に多いが寒帯にもおよび現在までに十数万種が知られている。日本からもチョウ類で約250種,ガ類で6000種ほどが知られている。
この鱗翅目をチョウ亜目とガ亜目に二分したり大蛾類と小蛾類に分けたこともあるがあくまでも便宜的な分類である。しかし現在でも体のどの部分を基準にするかは学者によって見解が異なる。前・後翅の翅脈の類似性をとり上げ両者の差が少ないものを同脈亜目Homoneura,大きいものを異脈亜目Heteroneuraと二分し,さらに体の構造で科に分ける方法と,雌の生殖口の数によって一つのものを単門亜目Monotrysia,二つのものを二門亜目Ditrysiaに分ける方法とがある。
しかし現在は単門類と二門類に分け,それに翅脈の類似性による同脈亜目と異脈亜目による分類法を加味し,進化の流れにそって系統がわかるように鱗翅目全体を21の上科に大別する方法が普遍化しつつある。なお,このうちいわゆるチョウが属するのは二つの上科のみであとはすべてガといわれる種類で占められている。
同脈亜目でありかつ単門類であるコバネガ上科,スイコバネガ上科,コウモリガ上科と単門類ではあるが異脈亜目であるマガリガ上科とチビガ上科の五つのグループは,原始的な形態を残していてトビケラ目(毛翅類)との類縁関係を立証している。
たとえば前翅または後翅の付け根に翅垂(しすい)があり,飛翔(ひしよう)するときこれを用いて前後の翅を同時に動かせるような原始的な突起が残っている。またコバネガには機能的な大あごがあって花粉や葉を食べる。これは他のすべての鱗翅類の口が吸収型の吻になっているのに,その原型を保ったまま生活しているもので往時の姿をしのばせるのに十分である。
二門類に属するものはすべて異脈亜目でヒロズコガ上科からマダラガ上科まで16に分類される。このうち昼間活動し,主として花を訪れるアゲハチョウ上科とセセリチョウ上科の2グループだけがいわゆるチョウであって,鱗翅類全体からみれば種類数も10%程度である。
卵からかえった幼虫は円筒形で頭部には原則として6対の単眼があり触角は短い。胸には3対の胸脚があり,腹には第3節から6節までと10節目に腹脚がある。ただし3節から6節までの腹脚は種類によって数が違う。呼吸は側面の気門による気管呼吸で,食性は種類によって幅はあるが特定の植物を選択する。コケをはじめほとんどの植物はガかチョウの幼虫に食べられるので人間にとって害虫とされるものも少なくない。
成長に従い脱皮した幼虫はやがてさなぎになる。多くの種類では口から糸を吐き,それで繭をつくりその中で蛹化(ようか)する。なおチョウは糸で体を支える帯蛹(たいよう)が多く,腹端でぶら下がる場合を垂蛹(すいよう)といっている。成虫は頭,胸,腹の区分がはっきりしていて頭には大きな複眼があり種類によっては単眼も1対ある。触角は糸状,葉片状,櫛歯(くしば)状など多くのタイプがある。口器は大部分の種では大あごが退化し小あごの外葉が異常に発達し吸飲する口吻を形成している。下唇のひげは口吻を両側から包む形にのびている。なお,口吻の長さは種の生活に適応しており,グループによっては退化してまったく使用できないものもある。
腹部末端の交尾器は複雑であるが種類ごとに安定しているので同定の決め手になる場合が多く,翅脈や斑紋と同様分類には重要な役割を果たしている。
→ガ →チョウ
執筆者:矢島 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
昆虫分類学上の鱗翅目Lepidopteraのことを平易に鱗翅類という。いわゆるチョウ・ガの仲間で、例外なく、卵→幼虫→蛹(さなぎ)→成虫の経過をとる完全変態の昆虫である。4枚のはねが鱗粉で覆われているのがもっとも目につく特徴で、鱗翅類(目)の名称はこれからきている。成虫の口器は特殊化して、液状物をとる吸収口となるが、原始的な少数の小ガ類はそしゃく型口器で、祖先の名残(なごり)をとどめている。
一般に昼間活動性のチョウ類は、はねの色彩や斑紋(はんもん)が鮮やかで人目をひくが、夜間活動性のガ類はじみな色合いのものが多い。ただし、ガ類でも昼間活動性のものは華美な色彩のものがあり、はねの色彩はその活動時刻にかなり関連があるものと考えられる。
幼虫時代の口器は成虫と違いそしゃく型で、その食べ物は植物質のものが多く、草木の葉、花蕾(からい)、実、落ち葉などを食べるもののほか、キノコ、コケ、地衣につくものがあり、草木の髄や樹幹に潜入するものもある。動物質食のものは、植物質食のものより二次的に転化(進化)したと考えられるもので、アブラムシやカイガラムシなどを捕食するもの、またセミ類の成虫に外部寄生するセミヤドリガのようなものもある。
熱帯から寒帯まで植物の生える所であればどこでも分布しているが、その種類数は植物の豊富な場所に多く、極地周辺、半砂漠のような植物相の貧弱な場所には少ない。世界的にみれば、東南アジアおよび中・南アメリカの熱帯から亜熱帯にもっとも種類が多く、アフリカがこれに次ぐ。
全世界に産する鱗翅目の既知種類は約15万種、そのうちチョウは約2万種、これは未開地のガの研究が不十分なためで、実数はおそらく20万種を超えるものと推定される。チョウの場合は調査が比較的によく行き届いているので、今後種類数が大幅に増える可能性は少ない。
[白水 隆]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…これはチョウに限ったことではないが,植物に依存する昆虫はその植物の生育する環境や気象条件に適応した結果独自の特徴をもち,科や属のレベルの分化が起こったと考えられる。
[分類]
体のどの特徴で分類するかは学者の考えで異なるが,鱗翅目Lepidopteraの場合は前翅と後翅の翅脈の相違で区分する方法があり,前・後翅の形と翅脈がほぼ同じのものを同脈亜目Homoneura,そうでないものを異脈亜目Heteroneuraとし,おのおのをさらに細分化した。しかし現在用いられている方法は雌の生殖口が一つのものを単門類,二つに分かれているものを二門類とし,後者をさらに三つに分け計4亜目を細分するものである。…
※「鱗翅類」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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