ヤガ(読み)やが

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤガ」の意味・わかりやすい解説

ヤガ
やが / 夜蛾

昆虫綱鱗翅(りんし)目ヤガ科Noctuidaeの総称。現在の分類法では、チョウやガのグループ。鱗翅目は、70~80科に分けられるが、ヤガ科はそのなかでも含まれる種の数がもっとも多く、日本だけでも1200種余りが記録されている。全世界に分布し、小さな大洋島にまですみついているが、熱帯圏に種の数がもっとも多い。しかし、極地や高山のような特異な気候帯にも適応し、生息している種もある。大部分夜行性で、よく灯火にも飛来するところから、ヤガ科とよばれているが、一部は昼飛性である。大きさは、はねの開張200ミリを超え、前翅の長さがガ類のなかで世界最大のナンベイオオヤガのような種類から、開張10ミリにも及ばないような小形種まである。

 はねの形、色彩、斑紋(はんもん)もさまざまである。夜行性の種は、一般に目だたない色彩と斑紋をもち、樹皮などに静止しているときは、その背景と区別がつかないほど似ている。後翅には、しばしば赤、紫、白などのはでな斑紋をもつ(シタバガ類)。このような種は、前翅で後翅を覆っているが、危険が迫ったとき、急に後翅を露出することによって、食虫性の鳥や哺乳(ほにゅう)類がひるんだすきに逃げるのである。成虫の胸部にはかなり大きな鼓膜器が開口しているが、これは、夜行性のガの天敵であるコウモリのキーキーという特殊な鳴き声をとらえて、危険から逃れる役を果たしているという。幼虫はイモムシ、ケムシとよばれ、腹脚は四対とも発達しているが、一部のグループでは前方の一対または二対が退化し、シャクトリムシ(シャクガ科の幼虫)のような歩行をする、いわゆる擬シャクトリムシである。

 樹木あるいは草本に寄生するのが普通であるが、ごく一部は針葉樹、シダ類、地衣類、キノコ類、枯れ葉などを食べる。種の数も個体数も非常に多いので、自然の生態系のなかでは、鳥獣の餌(えさ)となるなど重要な役割を果たしているが、害虫として注目される種も少なくない。たとえば、リンゴケンモン、キバラモクメキリガなどはリンゴ、ナシなど果樹に被害を与え、カブラヤガヨトウガ、タマナキンウワバなどはキャベツ、ハクサイなどの大害虫、アワヨトウイネ、ムギ、トウモロコシにつき、ウリキンウワバはヒョウタン、ユウガオ、ヘチマなどウリ科の葉に加害する。また、庭園樹のフヨウ、ムクゲ、アオイにはフタトガリコヤガの幼虫がつくし、ザクロやサルスベリにはアシブトクチバが加害するなど、害虫の数が多い。

[井上 寛]

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改訂新版 世界大百科事典 「ヤガ」の意味・わかりやすい解説

ヤガ (夜蛾)
owlet moth

鱗翅目ヤガ科Noctuidaeの昆虫の総称。全世界にわたり2万種以上を産すると思われ,鱗翅目中最大の科である。日本には約1300種が分布する。形態的にも多様で,十数亜科に分かれる。一般には体は太く強壮で,強い飛翔(ひしよう)力をもち,夜間に行動し,よく発達した口吻(こうふん)で花みつ,樹液,果汁などを吸収する。生態的な適応性にすぐれ,雪線に近いヒマラヤの高山帯から,亜寒帯,温帯,熱帯の森林や草原,海浜や海洋島の植生に至るまで,固有な種が定着している。

 幼虫は主として樹木,草本の葉を食べ,ごく一部の群れは針葉樹,シダ類,コケ類,地衣にもつき,まれにカイガラムシなどを捕食する肉食性の種もある。栽培作物の害虫となる種もこの科に多く,カブラヤガなどのモンヤガ類,ヨトウガアワヨトウ,ハスモンヨトウ,タバコガフタオビコヤガなどは日本でも著名である。また熟した果実に加害するエグリバ類やアケビコノハなど,防除がむずかしい。しかし森林害虫となる種は少なく,自然界の食物連鎖のシステムのなかでは,野鳥類の重要な食物源となっている側面があろう。昼間は地物や林中に潜むので,前翅はじみな隠ぺい色を呈する種が多いが,後翅には鮮やかな白色,黄色,赤色,青色などのはでな色彩をもつ種もある。開張10cmをこえるヨコヅナトモエのような大型種から,開張1cm以下のコヤガの類まで,姿は多様である。
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百科事典マイペディア 「ヤガ」の意味・わかりやすい解説

ヤガ(夜蛾)【ヤガ】

鱗翅(りんし)目ヤガ科の総称。種類が多く,全世界に2万余種,日本にも約1000種を産する。大きさは開張10〜200mm。幼虫は一般に無毛,または粗毛があり,円筒形で肥大し,植物の葉を食害する。成虫の多くは夜行性,樹液や果汁を好み,灯火にもよくくる。カブラヤガアワヨトウイネヨトウヨトウガアケビコノハなどは害虫として著名。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヤガ」の意味・わかりやすい解説

ヤガ
Noctuidae; miller; owlet moth

鱗翅目ヤガ科の昆虫の総称。多くは中~大型のガで,体は短太のものが一般的で,全体が厚く鱗粉におおわれる。胸部は大きく,背面の鱗毛は総状になることが多い。口吻は発達している。前翅は複雑な斑紋をもち,静止すると保護色として周囲とまぎらわしい色彩のものが普通であるが,後翅の斑紋は単調,または美しいが単純な斑紋をもつものが多い。翅刺は普通発達する。幼虫は円筒形で,一般に1次刺毛しかない芋虫状。多くは夜行性で,植物の重要害虫が少くない。鱗翅類中最大の科で,全世界に約2万種,日本で 1000種近くが知られている。

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