ヤスデ(読み)やすで(その他表記)millipede

翻訳|millipede

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤスデ」の意味・わかりやすい解説

ヤスデ
やすで / 馬陸
millipede

節足動物門倍脚(ばいきゃく)類(綱)Diplopodaの陸生動物の総称。細長い体形、多数の体節と歩肢があるのでムカデと混同されやすい。

[篠原圭三郎]

形態

一般に外骨格は石灰質を含んで硬い。頭部と胴部に分けられ、頭部には1対の触角があり、目は複眼状の集眼をもつものから、まったく欠いているものまである。胴部は普通20個以上の胴節からなり、頸板(けいばん)に続く3胴節にはそれぞれ1対、第5胴節以降は各節にそれぞれ2対の歩肢をもつ。これは歩肢のほか気門も2対ずつあり、神経節も2個ずつあるので、発生上2個ずつの体節が癒合したものと考えられ、重体節とよばれている。分類上の綱名であるラテン名Diplopodaは、double-footed(二重歩肢=倍脚)の意味である。胴部の背板は肥厚し、側板と癒合して環状となっているので、左右の歩肢は基部のところで腹面の正中線上で近接している。各胴節の側面に臭孔が1対ある。生殖腺(せん)は消化管の腹面にあり、第3胴節と第4胴節の腹面に開孔する。また、雄の交尾器は歩肢の変形した生殖肢で、普通、第7胴節に1対か2対ある。体長2~280ミリメートル、歩肢対数は13以上、100対以上にもなる。

[篠原圭三郎]

生態

おもな栄養源は腐植質で、植物遺体の分解者として土壌動物の重要な働きの一環を占めている。カビやキノコを食べるものもあり、ときには新芽を害することもある。山林の落葉層および土壌をおもな生息場所としているが、腐植のある所であれば都市の公園緑地、住宅街にもすむ。洞穴にはコウモリの糞(ふん)を食物とする特殊化したものもある。多くは春または秋のどちらかに生殖期があり、交尾、産卵する。産卵は、1卵ずつを泥で塗り込めて放置するタマヤスデ、卵塊として地中のすきまに放置するヤケヤスデ、泥でつくった卵室の中に卵塊を産むオビヤスデ、雄が卵を保護しているヒラタヤスデなどいろいろな型がある。卵は1か月たらずで孵化(ふか)し、多くは3対の歩肢をもつ1齢幼生となる。変態は脱皮ごとに胴節数や歩肢数が増える増節変態で、約7幼生期を経て成体になる。寿命は1年のものもあるが、7~8年に及ぶ種類もあり、成体になってからも脱皮を続けるものもある。乾燥および光を嫌い、湿度の高い夜間におもに活動するが、湿った所では昼も活動している。敵にあうと球形または渦巻形になるが、なお胴側面の臭腺からキノンシアンを含んだ臭液を分泌して身を守る。特別な武器もなく、行動も敏速ではないが天敵は少ない。

[篠原圭三郎]

分類

倍脚綱は、次の六つの目に分類されている。

(1)フサヤスデ目Polyxenoidea 石灰質を含まない外骨格のため、体は軟らかく、美しい体毛をつける。一見カツオブシムシの幼虫に似る。

(2)タマヤスデ目Oniscomorpha 球状の防衛姿勢をとるので、外見上は陸生甲殻類のダンゴムシに似ている。

(3)ツムギヤスデ目Nematophora 30前後の胴節で背板両端に3対の大剛毛をもち、尾端に出糸突起があり、行動はすばやい。

(4)ヒメヤスデ目Juliformia 細長い円筒状で、40個以上の胴節がある。尾端のとがったフジヤスデが日本全国に分布するほか、洞穴特産のリュウガヤスデやホタルヤスデなどがある。

(5)ヒラタヤスデ目Colobognatha 山地の倒木や朽ち木の裏側に群生し、行動は鈍い。橙(だいだい)色、朱色など体色の美しい種が多い。また、雄が抱卵する奇習をもつ種がある。

(6)オビヤスデ目Polydesmoidea 日本全国にもっとも普通にすむ仲間で、種類も多い。胴節数は20個で、都市郊外に多いヤケヤスデ、山林に多いアカヤスデやオビヤスデ、ときに大発生をするキシャヤスデ、アリの巣内に共生するハガヤスデなどがある。

[篠原圭三郎]


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改訂新版 世界大百科事典 「ヤスデ」の意味・わかりやすい解説

ヤスデ (馬陸)
millipede

倍脚綱(ヤスデ綱)Diplopodaに属する節足動物の総称。倍脚類ともいう。漢名は馬蚿,商蚷。日本での古名オサムシ(筬虫),ゼニムシ(銭虫),エンザムシ(円座虫),アマビコ(雨彦),俗称ババムカデ(婆百足)など。Diplopodaは,足数が2倍の意味で,倍足類ということもある。ムカデとともに多足類としてまとめられることがあるが,類縁関係はそれほど近くはない。細長い体形で頭部と胴部に区分される。頭部は1対の短い触角があり,眼は有するものと有しないものとがある。胴部は石灰質の外骨格で覆われ,同じような構造の体節がふつう20個以上あり,無肢の頸板の後の3節が胸部に相当し,各1対の歩肢がある。第5胴節以降に各2対の歩肢があり,いわゆる重体節となっている。この第5胴節以降の体側部か背板側縁に臭孔と呼ばれる分泌孔があり,そこからヨウ素,キノンなどを含む不快な液を分泌し外敵から防御する。呼吸は気管で行い,胴部の各歩肢の付け根に気門を開く。排出はマルピーギ管で行う。循環系は開放循環系である。雌雄異体で,生殖器官は胸部に開孔しているが,雄では第7胴節に生殖肢(交尾器)を有する。このように胸に生殖孔をもつので,ヤスデモドキ類などとともに前性類とされることもある。孵化(ふか)直後の1齢幼虫はふつう3対の歩肢をもち,脱皮ごとに体節数,歩肢対数の増える増節変態をする。ほぼ7回以上の脱皮を経て成虫となる。成熟までに要する年数は1年のものもあるが,数年かかる種もある。食性はおもに腐植質であるが,消化吸収の効率が低いため,糞粒は多量の有機質,とくに窒素化合物に富む団粒となり土壌の肥沃化に大きな働きをしている。世界に1万種以上,日本産は300種以上が知られているが,なお未知種も数多いと思われる。日本産のヤスデは2亜綱,10目に分類されている。

 触顎亜綱はフサヤスデ目のみで,日本産はフサヤスデ1種,海浜に多いイソフサヤスデ,樹皮下にすむハイイロチビケフサヤスデなど。3亜種のみ既知。唇顎亜綱は後雄上目と前雄上目に分けられる。前者はタマヤスデ目のタマヤスデ数種があり,尾端に交尾肢をもつのが特異である。後者は雄の第7胴節に生殖肢(交尾肢)をもちオビヤスデ目,ツムギヤスデ目,ヒメヤスデ目,ヒラタヤスデ目の4目がある。オビヤスデ目は胴節数20個で,このうち人家付近にもっともふつうなヤケヤスデ,農村部に多い黒褐色のアカヤスデは春から初夏にかけ集団発生して人家内へ入ってくることがある。またババヤスデ科のキシャヤスデも本州中部山岳地方で大発生し,列車運行を阻害したり,家屋侵入などの被害を与える。オビヤスデ属には洞穴性としてとくに白化した種も多い。珍しい習性としてはアリの巣の中に共生するハガヤスデもある。ヒメヤスデ目には巨大な種が多く,セーシェル諸島のダイオウヤスデは体長35cmにも達し,人の指ほどの太さがある。東南アジアにもこれに近い種類がある。西表島には約10cmに達するタイワンマルヤスデが分布している。人間との利害関係では森林の土壌の肥沃化に貢献していることとともに,大発生による列車運行の妨害や,不快感を与えるなどの面もある。しかし直接のかかわりは少ない動物といえよう。
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百科事典マイペディア 「ヤスデ」の意味・わかりやすい解説

ヤスデ

節足動物倍脚綱の総称。ムカデと同様に多くの体節からなるが,各体節に2対の脚をもつ点,生殖孔が体の前方部に開く点などが異なる。体は扁平〜円筒形。体長2〜3cmのものが多いが,20cmを超えるものもある。日本産は約300種あり,昼は枯葉の下などに潜み,主として夜間活動。各体節の側方に臭腺があり,ここからの分泌物はかなりの毒性をもつといわれる。ときに大群をなして移動し,鉄道線路などにあがって列車の進行を妨げたりする種がある。

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