日本大百科全書(ニッポニカ) 「キノン」の意味・わかりやすい解説
キノン
きのん
quinone
カルボニル化合物の一種で、芳香族炭化水素のベンゼン環に結合している水素原子2個をそれぞれ酸素原子で置換した化合物をいう。ドイツ語名Chinonに基づいて以前はヒノンとよんだこともある。
代表的なキノンとしてp(パラ)-ベンゾキノンとo(オルト)-ベンゾキノンがあり、これらの基本骨格に種々の芳香環や複素環が縮合してできる化合物を一般にキノンと総称する。m(メタ)-ベンゾキノンは存在しない。
前記のp-ベンゾキノン、1,4-ナフトキノンのように二つの酸素原子が6員環の反対側の1と4の位置(パラの位置という)を占めているものをp-キノンといい、o-ベンゾキノン、フェナントレンキノンのように二つの酸素原子が隣り合わせの1と2の位置(オルトの位置という)を占めているものをo-キノンという。
キノン誘導体は動植物の色素として天然にかなり広く分布しており、アカネの根から得られ古代から染料に使われていたアリザリンもアントラキノン誘導体である。また、血液の凝固促進などの生理作用をもつビタミンK群(K1~K3)なども分子中にキノンの骨格をもっている。
[廣田 穰]
製法
相当するp-およびo-ジヒドロキシ芳香族化合物(ヒドロキノン)、アミノフェノール、芳香族ジアミンを酸化すると得られる。ジヒドロキシ芳香族化合物の酸化によりキノンを生成する反応は可逆反応であり、還元によりキノンは元のジヒドロキシ化合物(ヒドロキノン)に戻る。
アントラキノンはアントラセンの酸化により得られる。
[廣田 穰]
性質
分子内にキノンの構造をもつ化合物は一般に色をもち、p-キノンは黄色、o-キノンは橙(だいだい)色ないしは赤色を呈するものが多い。キノンの骨格の6員環は、ベンゼン環とは異なり芳香族性は乏しく、普通の芳香族置換反応は行わない。キノンのカルボニル基はケトンやアルデヒドのカルボニル基のようにヒドロキシルアミンと反応してオキシムを生成する。
[廣田 穰]
用途
キノン骨格をもつ化合物が濃い色をもっていることを利用して、染料としての用途が広い。とくにアントラキノン類は、アシッドブルー25、リアクティブブルー4、スレンブルーRSNなど紫、青色系の染料としての用途が多い。また、ビタミンKやユビキノンなど生物学的に重要なキノン誘導体も知られている。
[廣田 穰]
『日本化学会編『実験化学講座21 有機合成3 アルデヒド・ケトン・キノン』第4版(1999・丸善)』▽『日本化学会編『実験化学講座15 有機化合物の合成3 アルデヒド・ケトン・キノン』第5版(2003・丸善)』▽『Saul PataiThe Chemistry of the quinoid compoundsPart1, Part2(1974, John Wiley & Sons, Inc.)』