改訂新版 世界大百科事典 「大発生」の意味・わかりやすい解説
大発生 (だいはっせい)
outbreak
ある生物とくに動物が通常に比べ急に大幅な個体数の増加を引き起こす現象を指す。異常発生とも呼ばれる。大発生には大きく分けて二つの型があり,一つは一世代だけで急激な個体数増加を示すもので突発的大発生sudden outbreakと呼ばれる。もう一つは数世代かけて高密度に至るもので漸進的大発生gradationと呼ばれる。後者の大発生は農作物や森林の病害昆虫によく見られ,しばしば破滅的な大被害をもたらすことがあり,農林学上深刻な問題となる。
ある種の昆虫の大発生においては,個体が通常の場合(孤独相)に比べ生理・形態・行動などの面で特異な変化をみせる場合(群生相)があり,この現象は相変異phase variationと呼ばれている。大発生地における急激な密度増加は,多くの場合個体群の集団的な移動を引き起こす。アフリカのサバクトビバッタ(飛蝗(ひこう))では,時には100億匹にも達する大集団をなして5000kmにも及ぶ大移動をする。哺乳類においても特異な生理・生態的変化をともなう場合のあることが知られているし,集団移動も頻繁に起こる。寒帯に住むレミング(タビネズミ)やユキウサギなどでは,前者は4年の,後者は10年の周期的大発生を繰り返し,これを食うアカギツネやオオヤマネコもそれにつれた周期的な密度変動を示すことが知られているが,温帯や熱帯に住む動物ではそうした周期的な大発生はほとんど見られない。
大発生の原因としては,えさをはじめとする生息条件の好転,天敵や競争種の欠如あるいは活動の低下などが考えられるが,多くの場合,そうした条件の発生は特別な気候条件の到来が契機となるとみられている。大発生の終息には病気や天敵の増加,生息環境の食い荒しあるいは汚染による自滅などが考えられるが,哺乳類ではその上に高密度にともなう頻繁な個体間の干渉(社会心理的ストレス)による個体群全体としての生理的弱化も一つの要因となりうる。また,密度の急激な増加と減少の過程には個体群の遺伝組成が大きく関与するという説もある。
魚の大発生は豊漁と呼ばれることもあり,その結果,時には大量死亡も起こりうる。赤潮は,海や湖,沼や池などの水域に植物または動物プランクトンが大発生した場合の総称で,水の華とか,色によっては青潮またはアオコとも呼ばれる。この現象は,その水域の富栄養化によって起こり,ひどい場合には魚や貝の大量死亡をまねくこともある。
執筆者:宮下 和喜
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報