日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラッキョウ」の意味・わかりやすい解説
ラッキョウ
らっきょう / 辣韮
[学] Allium bakeri Regel
ユリ科(APG分類:ヒガンバナ科)の多年草。中国原産で、中国で紀元前3世紀以前から栽培され、日本へは9世紀までには中国から伝来し、ナメミラ、オホミラなどとよばれ、古くは薬用に、江戸時代ころには野菜として全国的に普及した。
鱗茎(りんけい)は狭卵形で、葉を束生する。葉は細長く約20センチメートル、断面が五角である。秋に葉の枯れた鱗茎から50センチメートル余りの花茎を出し、先端に美しい紫色の小花を球状につける。しかし種子はできない。古い鱗茎には数個の新しい鱗茎ができて繁殖する。冬を越して初夏に鱗茎が成熟して休眠に入るので、このころに掘り上げて収穫する。8月ころに休眠から覚めるので、種球を畑に植え付ける。排水のよい土地を好み、主産地は鳥取県の砂丘地帯、鹿児島県、宮崎県である。主品種にはラクダ、八ツ房(やつぶさ)などがある。また、ハナラッキョウという小形のものがある。なお、日本で広くエシャロット(エシャレット)の名前で香辛つま野菜とされているものはエシャロットA. cepa L.ではなく、ラッキョウを軟白したものである。
[星川清親 2019年3月20日]
利用
ラッキョウは水分86%、タンパク質0.6%、糖質13%で、そのほか栄養的には価値が低い。しかし特有の香りと辛味、それに歯ざわりが好まれる。おもに漬物とし、酢に砂糖あるいは蜜(みつ)、しょうゆなどをあわせて漬ける。また塩漬け、粕(かす)漬け、みそ漬けなどのほか、焼酎(しょうちゅう)に氷砂糖を加えて漬ける。小粒のものを酢と蜜に漬けたものを花らっきょうとよんでいる。そのほか甘煮にすることもある。ラッキョウは中国でも多く用いられるが、欧米ではまったく食用とされていない。
[星川清親 2019年3月20日]
文化史
『爾雅(じが)』「釈草」のかいを4世紀の郭璞(かくはく)は「菜」と注し、6世紀の『斉民要術(せいみんようじゅつ)』は薤(かい)(ラッキョウ)とみなした。『斉民要術』は栽培法をあげ、種薤(しゅかい)は青い葉を出したのを取り出し植えると、無性繁殖を述べる。ラッキョウは四倍体(染色体数32)か三倍体(同24)で、種子はできない。ラッキョウの名は中国名の一つ辣韮(らっきゅう)に由来するが、平安時代はニラ(美良(みら))に対応して於保美良(おほみら)(大ニラ)とよばれた。ニンニク、ニラ、ネギ、ショウガとともに五葷(くん)の一つとされ、禅寺では「不許葷酒(くんしゅ)入山門」と、持ち込みを嫌った。
[湯浅浩史 2019年3月20日]