1697年(元禄10)に出版された,刊本としては日本最古の体系的農書。元福岡藩士宮崎安貞が福岡城外女原(みようばる)村に帰農40年にして著述したもの。全11巻。貝原益軒の序がある。第11巻は益軒の兄楽軒の筆で付録とする。10巻は農事総論,五穀,菜(2巻),山野菜,三草,四木,菓木,諸木および生類養方,薬種に分かれる。農事総論をはじめ各論の栽培技術においても耕作農民の立場から詳細な記述をしている。本書が本邦農書の原典と称されるのも,まさにこの点にもとづく。とくに協力者貝原益軒の影響もあって,中国(明)の《農政全書》から多くの知識を得ているにもかかわらず,むしろそれらを利用して近世初期の農業に熟達しない一般耕作農民に対し,合理的な働き方を教えるという態度でつらぬかれていることは,《農政全書》が上からの官人的農書であるのと対照的であり,本書の独自性といえる。また当時の商品生産的傾向に対し,無条件に商品化を勧めるのではなく,まず飢餓からの脱出,自給の確保を優先的に考え,そのための集約農業の進め方を教えており,その意味で近世農業の指針を示している。初版以来,幕末まで何回も版を重ね,その後の各地の農書はほとんど直接間接に本書に刺激を受けている。明治以降もさまざまな形で出版され,名実ともに近世農書の代表となっている。《日本農書全集》所収。
執筆者:山田 龍雄
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農書名。著者は宮崎安貞(やすさだ)。1697年(元禄10)京都の書堂柳枝軒から刊行。本書以前にも多くの農書がつくられたが、それらはすべて写本として流通したのに対し、本書は初めて版本として広く世間に流布し、1894年(明治27)に至っても出版された。本書は宮崎安貞の40年にわたる研鑽(けんさん)の結晶である。その特色は、著者の村居体験のなかでの観察と蓄積、中国農書への知識・方法とそのわが国への適用、畿内(きない)各地をはじめ諸国旅行による農業技術の調査・吸収である。中国農書については同郷の貝原益軒(かいばらえきけん)の寄与が大きく、また益軒の兄楽軒が一部を書き、また補っている。その内容構成は、第1巻農事総論、第2巻五穀之類、第3・第4巻菜之類、第5巻山野菜之類、第6巻三草之類(ワタ、藍(あい)、タバコなど工芸作物)、第7巻四木之類(茶、漆、楮(こうぞ)、桑)、第8巻果木之類、第9巻諸木之類、第10巻生類(しょうるい)養法(家畜、家禽(かきん)、養魚)・薬種類、第11巻附録(楽軒著、農民の心得を述べたもの)。本書は、一般農業技術、とくに商品作物栽培技術の指導書として当時の時世に迎えられたものである。
[福島要一]
『『農業全書 巻1~11』(『日本農書全集11・12』1978・農山漁村文化協会)』
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農学的体系性をもつ近世農書。11巻。宮崎安貞(やすさだ)著。1697年(元禄10)刊。構成は,農事総論,五穀之類,菜之類,山野菜之類,三草之類,四木之類,菓木之類,諸木之類,生類養法,薬種類の10巻と,貝原楽軒(益軒の兄)が国政・藩政と農事のあり方を論じた農政論の付録1巻からなる。宮崎安貞は中国の「農政全書」を手本とし,諸国を巡歴して農業事情を見聞,筑前国周船寺でみずから農業に従事し,農業技術の改善と普及に尽力した。この成果を結集したもので,享保・天明・文化・安政・慶応・明治年間に再版され,全国各地に数多くの読者を獲得し,以後の農書や農政の展開に大きな影響を与えた。「日本思想大系」所収。
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