ネギ(読み)ねぎ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ネギ」の意味・わかりやすい解説

ネギ
ねぎ / 葱
[学] Allium fistulosum L.

ユリ科(APG分類:ヒガンバナ科)の多年草鱗茎(りんけい)と葉に特有の香りと辛味があり、野菜、香辛料として栽培される。葉は中空の円筒状で、長さ約60センチメートル、秋から春によく成長し夏に衰える。晩春に長さ約50センチメートルの花茎を出し、先端に白緑色6弁の小花が細い柄でまり状に密集して咲き、いわゆるねぎ坊主になる。種子は小さく、やや稜(りょう)があり、黒色で光沢がある。地下部の鱗茎はほとんど肥大しないが、地下の葉鞘(ようしょう)は白く、栽培法により50センチメートル以上にも伸長する。ネギの1変種であるヤグラネギvar. viviparum Makinoは、初夏にできるねぎ坊主の花の大部分が子苗になり、そのうちの数本がねぎ坊主の上で伸び、それにまた子苗ができ、2~3階のやぐら状になるのが特徴で、変わった形態を示すことで知られている。

 一般には秋に苗床に種子を播(ま)き、翌春苗を畑に定植する。関東では根元に深く土寄せをして白ネギ、いわゆる根深(ねぶか)型に育てる。代表的品種に細長い千住(せんじゅ)、合柄(あいがら)がある。また下仁田(しもにた)は直径が3~4センチメートルと太い品種として知られている。これらは耐寒性が強く、寒冷地での栽培に適している。関西では土寄せをせず、葉と短い葉鞘部ともに食用にする。代表的品種に九条(くじょう)がある。これらは多く株分れし、葉も鱗茎もともに柔らかで、葉ネギとしての利用に適している。

 原産地はシベリア、バイカル、アルタイ地方とされるが、中国の西部とする説もある。日本へは古く中国から朝鮮半島を経て伝来したと推定される。一方、ヨーロッパではネギに関する古い記録はみられず、イギリスでネギが栽培されたのは17世紀以降である。アメリカへは1806年に初めて伝えられたが、春先若葉をサラダにする程度の利用である。

[星川清親 2019年1月21日]

利用

関東のネブカネギは冬が旬(しゅん)である。関西の葉ネギは夏も栽培できるが、やはり冬のほうが味が優れる。ネギの辛味と香りの主成分はアリル硫化物である。刻んだネギは薬味とし、とくに麺(めん)類に欠かせない。刻んだあとに水にさらすと刺激臭も緩和され、身もしゃっきりする。芽ネギは、苗床にネギの種子を密に播(ま)いてつくったごく若い芽生えで、香辛料として利用する。

 ネギは煮ると甘味があって、日本料理に重要な野菜である。とくにすき焼きには不可欠の野菜とされ、明治以降、牛肉の消費に伴ってネギの需要も増加した経緯がある。煮食が主で、ぬたなどにもされる。

 葉ネギには、100グラム当りカロチン860マイクログラム、ビタミンC33ミリグラムを含む。ネブカネギの場合は、カロチン150マイクログラム、ビタミンC14ミリグラムと葉ネギに比べて少ない。とくにカロチンは白ネギの部分には含まれない。栄養的には緑色の葉ネギのほうが優れているといえる。

 葉鞘の白色部分は薬用にもされ、葱白(そうはく)とよばれて昔から強壮、興奮、利尿、発汗、去痰(きょたん)のほか駆虫の効があるとされる。

[星川清親 2019年1月21日]

文化史

『爾雅(じが)』(前2世紀ころ)に「茖(かく)、山葱(さんそう)」(茖は山葱である)とみえ、荘子(そうし)は「春月飲酒茹葱(くうねぎ)、以(もって)通五臓(ぞう)」と語り、『礼記(らいき)』(前1世紀ころ)には「凡膾、春用葱」(膾(なます)は春にはネギを用いる)と載る。古代の中国では重要な野菜で、『斉民要術(せいみんようじゅつ)』(6世紀)には葱、葱白、葱頭をあわせて67の調理法が記述されるが、それはショウガに次いで多い。日本には5世紀までに渡来したと推定され、『日本書紀』の仁賢(にんけん)天皇6年9月条に秋葱(あきき)の名が出る。平安中期の『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』は葱和名紀(き)、冬葱和名布由木(ふゆき)をあげ、品種の分化をうかがわせる。ネギの名は江戸時代に広がり、千住、加賀、九条の3系に大別されるネギの品種群も、江戸時代には成立した。加賀系は耐寒性強く、積雪に耐える北方型のネギで、葉は太くて、分げつは少ない。その代表の下仁田ネギ(群馬県)は200年余りの歴史をもち、江戸の将軍に献上したので、殿様ネギともよばれた。

[湯浅浩史 2019年1月21日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ネギ」の意味・わかりやすい解説

ネギ(葱)
ネギ
Allium fistulosum; Welsh onion

ヒガンバナ科ネギ属の多年草。東洋ではかなり古くから重要な野菜となっているが,欧米ではあまり栽培されない。鱗茎はふくらまず白色。葉は筒状で中空。5~6月頃,高さ約 70cmの花茎を伸ばし,白色の花を多数つける。花序は初め卵円形で先がとがり,総包に包まれているが,開花期に総包が破れて球状になり,ねぎ坊主と俗称される。ネブカ,フカネギなど軟白された葉鞘部を食用にする株分かれのほとんどない系統と,ハネギ,センボンネギなど株分かれを繰り返し,きわめて多くの葉をつけて葉と葉鞘部を食用にする系統とに大別される。

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