レジオネラ症(読み)レジオネラショウ

内科学 第10版 「レジオネラ症」の解説

レジオネラ症(Gram 陰性悍菌感染症)

(19)レジオネラ症(legionellosis)
概念
 レジオネラ属細菌(Legionella spp.)は水系・土壌に広く存在する細胞内寄生性のブドウ糖非発酵Gram陰性桿菌である.自然界ではおもにアメーバ内で増殖し,本菌で汚染されたエアロゾル吸入することにより肺炎の原因となる.レジオネラ症(在郷軍人病)の感染源としてはクーリングタワーの冷却水が重要であるが,最近では噴水,循環式浴槽,温泉などを感染源とする集団感染,また頻度は低いものの院内水系汚染による院内感染の事例も報告されている. レジオネラ属細菌でヒトに病原性を示すものが40種以上報告されているが,最も頻度が高く重要な菌種はL. pneumophila血清群1であり,その他の血清群(血清群2〜6など)や菌種(L. bozemanii, L. micdadei, L. gormaniiなど)による感染例も散見される.レジオネラ属細菌は通常の細菌検査で使用される培地には発育せず,その培養にはBCYE-αなどの特殊培地が必須である.臨床検体中ではGram染色に難染色性を示すことから,本菌感染症を疑った場合にはヒメネス染色,鍍銀染色などを実施する.また,本菌はマクロファージなどによる貪食殺菌に抵抗して細胞内で増殖することが可能であり,この細胞内寄生性が本症の発症病態および治療法を考慮するうえで重要となる. 汚染されたエアロゾルの吸入により肺胞腔に進入したレジオネラは,マクロファージや肺胞上皮細胞などの細胞内で増殖を開始する(図4-5-16).レジオネラは感染細胞に対してアポトーシスを誘導することが知られており,これが本症でみられる急性肺障害,急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)などと関連しているものと考えられる.また発症病態は不明であるが,インフルエンザ様熱性疾患としてみられるPontiac熱もレジオネラを原因とする感染症の1つである.
臨床症状
 欧米において市中肺炎の3~5%がレジオネラによるものであることが報告されており,わが国においても欧米と同じぐらいの頻度で発症していると考えておく必要がある.40歳以上の中・高年者を中心に発症し,2~4:1で男性に多くみられる.レジオネラ感染症としては,肺炎が最も重要であるが,インフルエンザ様熱性疾患としてのPontiac熱や心内膜炎・腎膿瘍などの化膿性疾患の原因となることにも注意しなければならない.
1)肺炎:
 軽い咳,微熱程度のものから意識障害を伴う劇症肺炎まで多彩である.宿主側危険因子としては,臓器移植に伴う免疫抑制薬投与,高齢,喫煙,慢性呼吸器疾患などが知られているが,本症の多くは特に基礎疾患を有しない中・高年者の市中肺炎としてみられる. 潜伏期間は2~10日であり,病初期の発熱,全身倦怠感,筋肉痛,食欲不振から始まり,次第に咳,痰,胸痛などの呼吸器症状が出現する.本症では頭痛,傾眠,昏睡,脳炎症状などの精神神経症状を伴う頻度が高いことが知られている.身体所見としては,肺野のラ音,胸部X線における肺炎の存在に加え,相対的徐脈,低血圧などもしばしばみられる.胸部X線では多発性陰影を示す頻度が高く,X線所見に比べ低酸素血症が強いことも特徴である.その他の臨床検査値異常としては肝機能障害,低ナトリウム血症,低リン血症,尿潜血陽性などを示す頻度が高い. 上記のような臨床症状に加え,Gram染色で有意な菌が観察されない場合には本症を疑う.レジオネラの培養にはBCYE-α培地などの特殊培地の使用が必須である.通常,培養3~7日で乳白色大小不同を示す特徴的なコロニーが形成される(図4-5-17).近年,レジオネラ感染症の診断法として尿中抗原検出法が応用されている.本法は特異性の高い検査法であるが,基本的にL. pneumophila血清群1を対象とした検査であることに注意しなければならない.その他の検査法としては,血清抗体価測定法および遺伝子診断法があり,本症を正しく診断するためにはこれら検査法をできるだけ併用して実施する必要がある.
2) Pontiac熱:
本症はインフルエンザ様症状を示す急性レジオネラ症であり,肺炎を伴わないことからレジオネラ肺炎とは区別される.全身倦怠感,筋肉痛,発熱,悪寒戦慄,頭痛などのインフルエンザ様症状とともに,乾性咳,めまい嘔吐などの症状がみられる.本疾患は対症療法により1週間以内に軽快する.
治療
 レジオネラ肺炎の死亡率は今日においても5~15%と高い.発症後,急激に呼吸不全が進行する症例があることからも,迅速かつ適切な診断・治療が重要である.レジオネラ感染症に対してはマクロライド系抗菌薬,ニューキノロン系抗菌薬が有効であり,重症例ではリファンピシンの併用投与が行われる.本菌は細胞内寄生菌であることから,細胞内移行性の悪いβ-ラクタム剤・アミノグリコシド剤は無効である.[舘田一博]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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