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急性呼吸促迫症候群 きゅうせいこきゅうそくはくしょうこうぐん

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きゅうせいこきゅうそくはくしょうこうぐん【急性呼吸促迫症候群】

急性呼吸促迫症候群とは
 急性呼吸窮迫症候群(きゅうせいこきゅうきゅうはくしょうこうぐん)、ARDS(Acute Respiratory Distress Syndrome)ともいいます。
 1967年、『ランセット』という医学雑誌に「成人の急性呼吸障害」という論文が発表され、胸部X線写真を撮ると、両側の肺に広範囲な陰影が現われ、重い呼吸不全におちいる病気の例が初めて報告されました。かつては成人呼吸促迫症候群と呼ばれましたが成人以外にもおこるため改称されました。
 ARDSになった人が、もともともっていた病気はいろいろですが、うっ血性心不全(けつせいしんふぜん)(心臓が十分に収縮できないで大きく膨(ふく)らむことで心臓内の圧力が増し、血液が流入しにくくなり、肺などに水がたまる病気)ではないことは確認されていました。
 外傷や敗血症(はいけつしょう)、急性膵炎(すいえん)などの重い病気にともない、肺に異常がない人に治りにくい呼吸不全がおこることは以前から知られていました。戦傷者が多く発病しており、第一次・第二次大戦中やベトナム戦争中には、ショック肺、外傷性ウェット肺(水がたまった肺)などという名前で報告されていたのです。
 ARDSは症候群ですから、症状、検査結果、病気の経過に共通点があります。それは、外傷や感染症などの病気になったのをきっかけに発病する、もともと肺に異常がない、重い呼吸不全がみられる、心臓に原因がないのに胸部X線写真で両肺に肺水腫(はいすいしゅ)(肺に余分な水がたまる)がみられる、などに要約することができます。心臓が悪くてうっ血性心不全になり、肺水腫になったわけではないのです。
 X線写真では、両肺がまっ白にみえます。毛細血管(もうさいけっかん)から血液中の水分が周囲の組織にしみ出すため、肺の水分が増え、肺の全体が白っぽく写るようになるのです。
●非常に高い死亡率
 ARDSの大きな特徴の1つは、治療が困難で、ひとたび発病してしまうと死亡率が50~70%におよぶという点です。なかでも、敗血症があってARDSをともなった患者さんの予後は非常に悪く、死亡者の90%が発病して14日以内に亡くなっています。高い死亡率からもわかるように、ARDSに対する有効な治療法はいまも確立されていません。
●ARDSをおこす病気
 ARDSは、からだになんらかの侵襲(しんしゅう)(悪影響を与えるもの)があったのをきっかけに発病します。侵襲から発病までの期間はふつう3日以内です。ARDSをひきおこす病気を表「ARDSをひきおこす病気」にまとめました。当初は、肺自体の感染症(肺炎)のように、一次的に肺がおかされるものは除かれていましたが、現在では誘因となる病気のなかに加えられています。
●発病のメカニズム
 ARDSの初期には、肺の毛細血管が損傷され、それにともなって血管の外にもれ出す水分の量が増えます(浮腫(ふしゅ))。毛細血管は血管内皮(ないひ)細胞と呼ばれる細胞によってつくられていますが、この内皮細胞が傷害されると、血液中の血漿(けっしょう)成分(液体成分)が血管の外にしみ出してしまうわけです。
 病変がさらに進行すると、血管内皮細胞だけでなく、肺胞(はいほう)をつくっている肺胞上皮(じょうひ)細胞も傷害され、肺がかたくなり弾力性のない状態におちいっていきます(線維化(せんいか))。
●好中球(こうちゅうきゅう)がはたす重要な役割
 肺の血管内皮細胞を傷害する主犯は、異常に活発になった(活性化した)好中球であることがわかっています。好中球というのは、血液中の白血球(はっけっきゅう)の1つで、本来は、からだに侵入した病原体や異物を破壊し排除するというたいせつな役割をはたしています。
 ARDSでは、この好中球が、からだに加わった侵襲(感染症、外傷、ショックなど)のため異常に活発になり、毛細血管の壁に接着して、活性酸素やたんぱく分解酵素(ぶんかいこうそ)など、細胞を傷つける物質を放出し、結果として血管内皮細胞が損傷されてしまいます。
 なぜ好中球が異常に活性化されてしまうかという点も、さかんに研究されており、サイトカインと総称される種々の物質が複雑に関与していることがわかってきています。
●ARDSの治療
 ARDSは、いまだに有効な治療法が確立されていませんが、かならず基礎疾患がありますから、それに対する治療が不可欠です。
 現在、行なわれている治療は、呼吸管理、循環管理、薬物療法の3つに大きく分けられます。いずれも、早期診断と治療が重要です。
 呼吸の管理 ARDSでは、肺の酸素を取り込む力が非常に低下しており、酸素吸入をしてもかんたんには血液中の酸素が増えません。そのため、気管内挿管(きかんないそうかん)(口あるいは鼻腔(びくう)からチューブを気管に挿入すること)や、気管切開(せっかい)(くびの皮膚を切って気管に穴をあける)によって、気管にチューブを挿入し、人工呼吸器に接続しなければなりません。
 人工呼吸をするメリットは、高濃度の酸素を吸入することができること以外に、ピープ(PEEP)といって息をはくとき(呼気時(こきじ))にも一定の圧力を肺にかけて肺胞がつぶれるのを防ぐことができ、呼吸を器械にまかせ、自力で呼吸をしなくてもよいため、エネルギーの消耗を防げること、などがあげられます。
 しかし逆に、人工呼吸にともなう合併症(圧力を加えての呼吸による肺の損傷、感染症にかかる機会の増加など)もあります。また人工呼吸は、ARDSの根本的な治療ではなく、あくまでも肺の機能が回復してくるまでの時間かせぎであることを知るべきです。
 薬物療法 実際に効果があるかどうかは議論のあるところですが、もっとも一般的に使用されているのは、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(ステロイド薬)です。それも、かなり大量に使用されます。たんぱく分解酵素の1つであるエラスターゼのはたらきを阻害(そがい)するウリナスタチンという薬もよく使われます。
 そのほか、まだ治験中の薬として、エンドトキシン(細菌から分泌(ぶんぴつ)される毒素で、敗血症のときに重要な役割をする)に対する抗体(こうたい)、ある種のサイトカインに対する抗体、好中球が毛細血管壁に接着するときに重要な役割をする接着分子に対する抗体、などがあります。
 これらは、より根本的な治療薬となる可能性をもっていますが、確実性という点でまだ問題があります。

出典|小学館
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それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。この事典によって自己判断、自己治療をすることはお止めください。あくまで症状と病気の関係についてのおおよその知識を得るためのものとお考えください。

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