新しく発見された呼吸器感染症で,肺炎の一種。1976年7月,フィラデルフィアで開かれたアメリカ在郷軍人会の年次総会に出席した会員の間に肺炎が流行し,182人の患者のうち29人が死亡した。死亡者から分離された病原菌はそれまで知られていなかった新種の細菌で,従来の人工培地に発育せず酵母エキスを加えた特殊培地でよく発育した。幅0.3~0.4μm,長さ2~3μmのグラム陰性杆菌でLegionella pneumophiliaと命名された。血清学的検索により,それ以前の1973年ワシントンの精神病院で流行した肺炎や1968年ミシガン州ポンティアクの健康管理センターで流行したインフルエンザ様疾患と同じものであることが明らかにされた。日本でも1981年に初めて報告されている。症状には,無症状の不顕性感染から,発熱,頭痛,筋肉痛を伴うインフルエンザ様症状,さらに重症肺炎にまで及んでいる。典型的な例では,2~10日の潜伏期についで頭痛,全身違和感があり,ついで悪寒戦慄,40℃に及ぶ高熱,筋肉痛,咳,血痰,胸痛,呼吸困難を伴う。悪心,嘔吐,腹痛,下痢などの消化器症状を合併することもある。試験管内ではいくつかの抗生物質に抗菌力が認められるが,臨床的にはエリスロマイシンが最も有効である。肺炎症状での致命率は15%である。
執筆者:木村 仁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
既知細菌分類のどの科およびどの属にも該当しないまったく新しく発見された細菌であるLegionella pneumophilaの感染によって発症する細菌性肺炎で、呼吸器系伝染病の一種。在郷軍人とは直接的な関係はなく、1976年フィラデルフィア市の某ホテルで7月21~24日に開催されたアメリカ在郷軍人会の年次総会参会者約4000人のうち、184人に劇症肺炎が発生し、そのうち24人が死亡、また会場のホテルから排出された冷房風に当たった通行人39人が同じ病気にかかり、5人が死亡したという事件を契機として命名された疾患である。アメリカの公衆衛生局のCDC(伝染病予防本部Center for Disease Control。1992年アメリカ疾病対策センターCenters for Disease Control and Preventionに改組)を中心とした精力的な検索によって、新種のグラム陰性桿菌(かんきん)の感染によることがわかった。その後の研究により、水中に長期間生存が可能で、世界中の川や湖水にも広く分布し、とくに増殖の好条件がそろう空調設備の冷却水を介して集団発生する可能性が濃く、ビル冷房の衛生管理対策が重視されるようになった。1980年以来ヨーロッパをはじめ、日本でも長崎、仙台、福岡で集団発生や散発的な患者発生の報告がある。
[柳下徳雄]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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